青森地方気象台長からのメッセージ
~東北地方太平洋沖地震から10年目に思うこと~

青森地方気象台長の近影  青森地方気象台長の小野寺です。

【あの日のこと】
 10年前の“あの日”のことを思い出そうとすると、いろいろな情景が次々と思い浮かんで、切なく悲しく気持ちになってしまう方も多いのではないでしょうか。
 私もあの日、仙台で見た、歩道に這いつくばる歩行者、鳴り響くサイレン、テレビから流れる津波映像、暗くなって次々と集まる避難者、点灯していない信号機と行き交う車のライト、灯りの消えた街並み、そして静かに澄んだ星空のことは、いまだ鮮明に覚えていて忘れ難いものになっています。
 私たちが住む日本は世界的に見ても自然災害が非常に多い国と言われています。だからこそ我が国では最先端のテクノロジーやシステムを駆使して自然災害を最小限に抑えてきたし、この先もずっとそうであると思っていました。それが危うい幻想だということを突き付けられたのが、10年前のあの日だったように思います。

【監視体制の強化と情報の改善】
 あの日は、気象庁の地震・津波監視体制が思いの外脆いものであることが判明した日でもありました。よもやあれほど広域かつ長期に亘って電力・通信が途絶することは想定しておらず、例えば計算に利用する観測データ減少により緊急地震速報の精度が低下するなどの影響が出てしまいました。 現在は、各観測機器のバッテリー増強、通信手段の二重化など、機能強化を進めるとともに、新たに大地震の検知能力を向上させるため広帯域地震計を整備するなど観測・監視体制を強化しています。また、平成28年に防災科学技術研究所が東北地方太平洋沖に整備したS-net(海底地震津波観測網)のデータを活用して、これまで以上に迅速に精度の高い情報提供が可能になるなど連携も深めています。
 情報面では津波警報や津波観測情報などが誤解されて伝わってしまったことや、巨大地震発生時や地震が頻発する場合に緊急地震速報が適切に発表されない事象が生じました。 これらの課題に対処するためマグニチュード8を超えるような大地震の場合は直ちに数値で津波の予想高を発表せず、津波の高さは「巨大」あるいは「高い」と、まずは危機感を伝える表現に変更しました。 津波観測情報も予想よりも小さな津波の間は値を速報しないで「観測中」と発表します。 緊急地震速報については従来の予測手法と新たな手法を用いて適切に発表されるよう改善を行っています。

【防災教育や訓練の重要性】
 東北地方太平洋沖地震による大津波から小中学生のほぼ全員が逃げおおせたことは「釜石の奇跡」として広く日本中に知れ渡りました。 決して奇跡などではなく釜石市が震災の7年ほど前から取組んでいた防災教育の賜物とも言われています。 気象庁でも防災教育の重要性は認識しており、大震災後に津波防災啓発ビデオ「津波に備える」「津波から逃げる」を全国の小中学校へ無料配布しましたが、あまり活用はされていないようで残念です。
 近年は、一時避難所となる学校と地区住民が一緒に避難訓練を実施しているケースも増えてきています。宮城県や岩手県では学校に配置されている学校防災主任が地区の自主防災組織リーダーに呼び掛け、訓練を企画することが多いようで、気象台に参画要請されることもありシナリオ作成や講評に協力しています。 青森県は自主防災組織の組織率が全国ワースト2と低く、万が一の災害発生時の「共助」が心配です。

【地震・津波防災に係る青森地方気象台の取組】
 令和2年4月 内閣府は日本海溝・千島海溝沿いでマグニチュード9を超える巨大地震が発生した場合の各地の津波高の推計結果を公表しています。それによると青森県の太平洋側から津軽海峡に面した海岸線で、軒並み10メートルを超える津波となり、八戸市では最大26.1メートル、青森市でも最大5.4メートルの津波があると推計されています。
 気にかけているのは、宮城県では平成12年11月に国が公表した「宮城県沖地震の長期評価」が出されたあとは、新聞・テレビが絶え間なく宮城県沖地震が迫っていることや海溝付近の地震と連動した場合に大津波が襲来することを繰り返し周知・啓発しており、宮城県民の多くは、一定程度、地震と津波に対する心構えはあったものと理解しています。 それでも10,000人に近い死者・行方不明者を出してしまいました。 翻って今、青森県にお住まいのどれだけの方が、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震と津波の発生に危機感を持っているのか、この現実に対処しようとしているのか、疑問に思わずにはいられません。
 あの日から10年を機に、まずは青森県あるいは皆さんがお住いの場所における地震と津波のリスクを知ってもらうこと、危険を察知していち早く避難行動に結びつけることが出来るようになること、そういったことのお手伝いが出来れば幸いと思っています。

令和3年3月
青森地方気象台長 小野寺 優