彦根地方気象台のコラム「気候変動とさくらの開花」

彦根地方気象台ホームページをご覧のみなさん、こんにちは、彦根地方気象台の後藤章仁といいます。私は観測・測器の業務を担当しています。昨年4月から初めて彦根で勤務し、早くも1年が経過しようとしています。

私の趣味はオートバイによるツーリングで、さくらの開花や満開の季節には少し寒いですが滋賀県各地(奥比叡・延暦寺、海津大崎、琵琶湖疏水など)のさくらの名所を訪問したいなと計画を巡らしているところです。

さて気象台では、季節の遅れ進みを観測するため、標本木を定めて生物季節観測を実施しています。観測種目としては、初春でうめ(開花)・さくら(開花・満開)、初夏であじさい(開花)、初秋ですすき(開花)、初冬でいちょう(黄葉・落葉)・かえで(紅葉、落葉)があります。

上図は現在の平年値の4月1日を基準日として、彦根のさくらの開花日の平年差の変化を1950年代からのグラフで表したものです(マイナスは4月1日より早く、プラスは4月1日より遅いことを表しています)。トレンドは10年で1.0日早くなっています(参考までに彦根でさくらの開花が一番早かったのは2021年3月22日でした)。

【彦根】さくらの開花日の平年差

昨今の気候変動により年平均気温が上昇傾向にあることはご承知のことと思います。下図は彦根のさくらの開花に影響を与える3月の平均気温をグラフで表したものです(統計期間は、1890年~2023年)。トレンドは100年で1.6℃上昇しています。

気候変動の影響を受けてさくらの開花・満開については、年々の変化はあるものの早くなっており、満開のさくらの前にランドセルを背負った小学生というイメージは過去の話になってきています。

また、ツーリングによる名所巡りが楽しめるのはこの季節ならでは。並行して高台から見下ろすさくらで彩られた街の景観を楽しみながら、持参した弁当や飲み物(コーヒーなど)を飲食すのもひと時の幸福に浸れます。


令和6年 3月

彦根地方気象台

後藤 章仁

彦根の3月平均気温


彦根地方気象台のコラム(過去分)

おおむね1年分を掲載予定です。

    • 令和6年2月「なだれについて」
      • 表層なだれイメージ図 全層なだれイメージ図
        表層なだれイメージ図 全層なだれイメージ図

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の友田義則です。観測や予警報業務の管理を行っています。

        2月4日は立春、暦の上では春が始まり少しずつ寒さが和らぎ始める時期となりますが、気象用語として2月は冬(冬:12月~2月)で、まだまだ寒さが残る時期です。例年、この時期は北部を中心に雪が降り、春先にかけて山地沿いに積雪として残ることがあります。南部でも太平洋側を低気圧が通過する場合には、雪が降って積雪となることがありますが、北部と比較すると降雪量やその頻度はやはり少ないです。

        今シーズンは、エルニーニョ現象の影響などにより暖冬傾向で雪の降る日が少なくなっていますが、昨年の12月22日から23日にかけてと今年の1月24日から25日にかけて北部中心に大雪となり、その積雪が根雪となって、北部では山地沿いで雪の残っている所もあります。これから2月下旬にかけて次第に気温が上昇し、寒気の影響を受ける頻度も少なくなっていきますが、積雪量が多くなっている所では、なだれの発生する可能性があります。

        なだれには、大きく2つのタイプがあり、一つは表層なだれ(古い積雪面に降り積もった新雪が滑り落ちる。)、もう一つは全層なだれ(斜面の硬くて重たい雪が、地表面の上を流れるように滑り落ちる。)です。表層なだれは、1月から2月にかけての厳冬期で、降雪が一番多くなる時期に起こりやすい傾向があります。1993年から2023年にかけての全国のなだれの月別発生件数の累計(※)によると2月が一番多く202件、次いで1月が126件、3月が108件となっており、2月がなだれの最も多く発生する時期といえます。全層なだれについては、気温が上昇し積もった雪が溶け始める融雪期(おおむね3月以降)に起こりやすくなります。

        なだれの発生する条件や発生しやすい場所は、地形や気象など様々な条件が関係していますが、主なものを挙げると、地形としては急な斜面で低木林やまばらな植生の斜面であることです。2つのタイプの違いとして、全層なだれが雪の滑り落ちるスピードが時速約40kmから80kmに対して、表層なだれは時速約200kmと非常に速く、しかも被害が広範囲となることがあるということです。また、発生条件の違いとしては、表層なだれでは短期間での多量の積雪、雪庇や吹き溜まりなどができている斜面などで、全層なだれでは、フェーン現象などによる急激な気温の上昇や降雨などによって起きやすくなります。

        スキーやスノーボード、冬山登山などレジャーでお出かけの際には、気象台の発表する注意報、気象情報やハザードマップなどで各地域のなだれの危険個所をあらかじめご確認ください。


        出典:雪崩から身を守るために(政府広報オンライン)


        令和6年 2月

        彦根地方気象台

        友田 義則


    • 令和6年1月「湖北の冬の風物詩」~山本山のおばあちゃん~
      • オオワシ
        写真:26年間連続して飛来したオオワシ「山本山のおばあちゃん」
        写真(a)~(c):琵琶湖に初飛来したオオワシ:湖北野鳥センター提供
        写真(d)~(f):食事中のオオワシ:気象台職員撮影(12月9日)

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。今年も引き続き「気象台コラム」を宜しくお願いします。彦根地方気象台で予報官をしています牧田といいます。1年前の気象台コラム(令和5年1月)で、「湖北の冬の風物詩」として長浜市湖北町山本山のオオワシ(通称:山本山のおばあちゃん)の飛来などについて紹介されました。今回は、オオワシの生態と気象との関係を再度調べてみましたので紹介します。

        昨年1月の気象台コラムをご覧ください。私が着目したのは、本文中の「2018年までの11月の平均気温が高いと飛来日が遅くなる傾向が伺えます。しかし2019年以降はこの関係性が崩れているように見えます。」という記述です。湖北野鳥センターから頂いた資料から、期間を延長して気温以外の要因についてもオオワシとの関係を調べ、以下に2023年の飛来日の予測を試みました。

        具体的には、2003年以降について11月のアメダス長浜の気象要素とオオワシの飛来日との関係を調べたところ、平均気温が高い、平均風速が強い、日照時間が多い、降水量が多いと飛来日は早くなるということです。なお、飛来日の予測には不確定要素が多くありますが、以下を想定して大胆に今年の飛来日を予測しました。 

        天気図を見てみると、オオワシの飛来日は、高い確率で前日に北海道付近を低気圧が発達しながら通過し、北海道付近に氷点下30度以下の寒気が入り、北西風が強まっていました。この関係から見ると、今年は高度約5500メートルで北海道付近を氷点下30度以下の寒気が入るタイミングの初回は11月11日頃でした。一方で近年は風速の強まりや日照時間の多さ以上に気温上昇が顕著でした。このため、近年の気温に着目し「気温が高いと飛来日は早くなる傾向」を予測において重視しました。これらから2023年のオオワシの飛来日は、次の寒気が入る11月18日頃と予測し適中しましたが、予測結果が判明するまで以下に述べる別の要因も考えていました。

        近年のアメダス長浜の気象変化ではなく、オオワシは越冬地である北海道付近の寒気の強さがある程度強まる結果を受けて、暖かな地域を目指して越冬するのかもしれません。そうなると、越冬地である琵琶湖周辺の自然環境ではなく、沿海州付近の寒気がある程度蓄積され、必要に迫られて暖かな琵琶湖に越冬するのかもしれません。さらに、北海道付近の越冬地ではなく繁殖地である樺太~沿海州付近の自然環境がオオワシの飛来日に関係してくるのかもしれません。

        興味は尽きませんが、2023年も元気な姿が見られて良かったと思います。オオワシを通して気象の面白さと難しさを体験できたらと思います。


        令和6年 1月

        彦根地方気象台

        牧田 広道


    • 令和5年12月「クリスマス寒波」
      • グラフ

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の山﨑誠導です。

        12月ということで、「クリスマス寒波」について書いてみようと思います。

        クリスマス寒波は、読んで字のごとくクリスマス頃に日本付近に強い寒気が入ることで、大雪や大荒れの天気となったり、太平洋側でも雪が降ることもあります。ただし、予報用語ではないので、気象庁ではクリスマス寒波という表現はしていません。

        さて、実際にクリスマス頃に寒波は来ているのでしょうか?大雑把な計算になりますが、クリスマス頃を12/23~27の5日間として、2001年~2022年の彦根地方気象台における、この5日間の平均気温の平年差と5日間の降雪量の合計をグラフにしてみました。青の折れ線が気温の平年差で橙色の縦棒が降雪量です。

        これを見ると、気温の平年差はマイナスの年もあればプラスの年もあります。ここで平年値を処理して、低い(-0.8℃以下)、平年並(-0.7℃~+0.9℃)、高い(+1.0℃以上)で見てみると、「低い」が8回、「平年並」が6回、「高い」が8回となり、毎年暖かい、毎年寒いという感じでなく、低い年もあれば高い年もあり平年並の年もあるというごく当たり前のような結果となりました。ただし、マイナス1℃以下の年は降雪を伴うことが多く、特に2021年は彦根では大雪となりました。

        なお、クリスマス寒波でない年でも、その後に「年末寒波」で大雪や大荒れの天気となることもあり、やはり注意が必要です。

        気象庁では、ホームページ上で「今後の雪」という情報を出しています。これは、1時間刻みで過去24時間及び6時間先までの積雪の深さなどを表示(動画も可能)する情報です。大雪の前に出される気象警報・注意報、各種情報などを利用し、雪に対する早めの準備をお願いします。

        「今後の雪」

        「気象庁ホームページ 防災情報」


        令和5年 12月

        彦根地方気象台

        山崎 誠導


    • 令和5年11月「伊吹山積雪の深さ世界一?」
      • 伊吹山測候所
        伊吹山山頂にあった測候所

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の山下寛です。

        毎年、伊吹山が雪化粧するようになると(伊吹山の初冠雪の平年値は11月20日)報道機関の方から「伊吹山の積雪の深さは世界一とのことですが本当ですか?」と問い合わせがあります。

        気象庁のホームページで公開している全国気象官署の最深積雪の記録は、第1位伊吹山(標高1377m)で11m82cm(1927年2月14日)、第2位青森県八甲田山系の酸ケ湯(標高890m)で5m66cm(2013年2月26日)となっています。酸ヶ湯の積雪記録は伊吹山の記録の半分程度です。

        私は、伊吹山測候所に新規採用となり山頂勤務をしたことがありますが、厳冬期の伊吹山山頂の厳しい自然環境の中で正確な観測記録を取るため(昔は測候精神と呼ばれていた・・)霧氷と格闘しながら、観測測器をメンテナンスしながら気象観測を行っていました。

        特に1日2回(9時、15時)の積雪を観測するのは気象状況の悪い時は大変な作業で、風雪が強く吹雪の中(まさしくホワイトアウト)、スキーを履いてロープを伝って、霧氷が広がる山頂を測候所の庁舎から20メートル程度離れた積雪を観測する地点に向かい観測したこともありました。過去には2名の測候所職員が殉職され三合目と山頂には「殉難之碑」が残っています。伊吹山の最深積雪の記録はこうした殉職者を出しながら、記録されたまさしく命がけで刻まれた観測記録です。おそらく、今後も日本の気象官署で伊吹山の最深積雪の記録を破られることはないでしょう。伊吹山測候所では1989年まで有人で観測を続けていましたが、現在、庁舎は取り壊されて更地化され当時の面影は何も残っていません。

        さて、山頂勤務は、春から秋(4月から11月)が2名、冬季は3名で水曜日から翌週の水曜日までの7泊8日間の一週間交代でした。春から秋はドライブウェイを利用し、山頂の駐車場からお花畑をハイキングしながらの交代でした。一方、冬季はドライブウェイが閉鎖となり、冬山装備に身を包み地元のベテランの山岳ガイドと一緒に厳しい雪山を歩いて上り、積雪の多い時はスキーを履き、交代でラッセルしながら時間をかけて山頂を目指しました。

        このように伊吹山の山頂勤務は厳しかったですが、天気が良い日には山頂からは360度にわたって遠方を見渡すことができ、琵琶湖、白山、御嶽山、濃尾平野、伊勢湾などが展望することができて絶景でした。特に山頂からの濃尾平野の夜景は素晴らしく、空には満天の星が輝いていたのが今でも鮮明に記憶に残っています。

        伊吹山は私にとって気象庁人生の始まりの地であり自然の厳しさを教えてくれました。今でも元気にマラソンを走れるのは、厳しい伊吹山の山頂勤務のお陰だと思っています。


        令和5年 11月

        彦根地方気象台

        山下 寛


    • 令和5年10月「伊吹山測候所」
      • 測候所 伊吹山
        伊吹山測候所 伊吹山

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の岡本純一です。わたしは気象台の労務管理や庁舎の管理などの業務を行っています。

        気象台は滋賀県彦根市にありますが、かつては測候所が伊吹山にありました。滋賀県民ならご存じの方も居られると思います。

        伊吹山地は滋賀県と岐阜県の県境に南北に連なっている高さ1,000m~1,300m余りの山並みです。伊吹山はその南端に位置し、標高1,377.4mで滋賀県の最高峰です。頂上三角点は県境から少し西の滋賀県にあります。

        さて、伊吹山測候所は1919年(大正8年)1月1日、滋賀県立彦根測候所付属伊吹山観測所として観測を開始しました。1929年(昭和4年)に国へ移管され、この時の名称は中央気象台付属伊吹山測候所でしたが、1939年(昭和14年)に伊吹山測候所に改称されました。

        それからは1977年(昭和52年)の気象衛星ひまわりの打上げなど観測手段の多様化により、数値予報技術も高度化する一方、山岳気象観測データの利用は相対的に低下しました。1994年(平成6年)6月24日に伊吹山測候所を廃止し伊吹山観測所に、1997年(平成9年)3月1日には伊吹山特別地域気象観測所となり、2001年(平成13年)3月31日をもって、82年余り続いてきた気象観測を廃止することとなりました。

        山頂には測候所当時の建物や鉄塔など設備が残っていましたが、経年劣化による老朽化で強風や風雪による設備破壊並びに周辺への破片の飛散、これに伴うハイカーへの危険が懸念され、また、伊吹山国定公園の景観にも良い状態となっていなかったことから、2010年(平成22年)10月より解体撤去工事を行い、同年12月に工事を完了しました。

        山頂は伊吹山国定公園で自然豊かな動植物の生態系があるため、山頂の「お花畑」の観光シーズンとイヌワシに対する影響が出ないことを最重点とし、10月及び11月に実施しました。解体工事後の敷地はこれまでの植生が変化しないように敷地内の土石のみを使用し、周囲と違和感が出ないように整地しました。裸地となった場所については事前に敷地内の植物の種子を採取していましたので、これを工事後に蒔き、植物の再生に努めました。

        山はこれから秋の紅葉シーズンを迎えます。伊吹山では1926年(昭和元年)10月18日に26cmの積雪の記録があります。紅葉の頃に白いベールがかかった景色は素晴らしいものです。

        このような景色はなかなかお目にかかれませんが、山頂の天気は変わりやすいので、ハイキング等、山登りされる方は服装にご注意下さい。


        令和5年 10月

        彦根地方気象台

        岡本 純一


    • 令和5年9月「小鮎釣り その2」
      • 釣り人たち
        今シーズンラストを楽しむ釣り人たち
        2023年8月31日 彦根市犬上川

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の大溝英哉です。9月1日から滋賀県内の河川では禁漁(禁漁の理由は、鮎やビワマスが産卵シーズンに入るため水産資源保護の観点からです。)となり小鮎釣りのシーズンが終わりました。私は、今シーズンも小鮎釣りと鮎料理を堪能することができました。滋賀県の水産資源に感謝!!

        鮎は1年で一生を終えるため年魚とも呼ばれます。秋から冬にかけて卵から孵化した稚鮎は、琵琶湖に場所を移し、翌年春の遡上に向けて栄養を蓄えます。春から夏の間に琵琶湖から各河川に遡上し、夏が終わると産卵のため下流域(琵琶湖付近)に下り、産卵後にその生涯を終えます。

        さて、今年の1月になりますが、滋賀県水産試験場の職員の方から鮎の産卵への気象の影響についてお話を聞かせていただきました。産卵には、秋のまとまった降水(台風等)により、川の流量が増し、砂利が洗われることで良好な産卵場ができること、産卵には川の水温が下がること(川の水温が23℃以下で産卵が始まり、20℃でピークとなる)が重要。また、鮎には早生まれ(9月中に孵化)、遅生まれ(10月以降に孵化)があり、遅生まれの鮎は成長が遅く、早期の漁獲時(12月)に漁獲体型にならない。魚体が小さいままだと熟成サイズに達せず、翌年の産卵に大きく影響する。とのことです。つまり鮎の産卵、成長には9月の天候が重要なカギを握っているようです。

        では、今年の9月の天候は、どのような予報となっているでしょうか。8月31日発表の1か月予報(9月2日~10月1日)では、天気は数日の周期的で変わり、平年に比べ晴れの日が少なく、平均気温は高い確率が80%、降水量は平年並または多い確率がともに40%となっています。

        残暑が厳しい予想となっていますので、水温が低くならないと鮎の産卵に影響を及ぼしそうです。来年も楽しく小鮎釣りができるよう、日々の天候も極端ではなく、平年並に推移してほしいと願います。


        令和5年 9月

        彦根地方気象台

        大溝 英哉


    • 令和5年8月「夏の流星群」
      • 夏の大三角と天の川
        夏の大三角と天の川 (7月16日23時頃 彦根市にて)

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の寺島萩人です。今年の4月に新卒で採用され、現在は主に観測・測器の業務を担当しています。

        大変暑い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。私は趣味兼日課で毎日ジョギングをしているのですが、この時期の日中は暑くて仕方がないので、毎日、日が沈んでから走るようにしています。その時にいつも夜空を眺めてから走り出すのですが、7月16日の彦根は快晴で風も穏やか、三連休の中日ということもあり、街明かりが少なかったのか、市街地でも天の川が見えたことに驚きました。私の持っているスマホのカメラでも、夏の大三角と天の川のツーショットを撮ることができたため、一眼レフなどをお持ちでない方も、ぜひ撮ってみてください。

        さて、8月といえば有名な流星群が見られることをご存じでしょうか。その名も「ペルセウス座流星群」といい、2023年は8月13日から14日にかけて、特に夜遅くから明け方にかけて最も見頃を迎えます。この流星群は毎年かなり多くの流星が見られることから、1月の「しぶんぎ座流星群」と12月の「ふたご座流星群」と共に三大流星群の一つに数えられており、空の暗い所で極大(※1)に観察した場合、なんと1時間あたり40個程度見ることができるそうです。さらに、今年は夜明け前に月が昇ってくるものの細いため、月明かりにほとんど邪魔されることなく流星群を観察できるということで、かなり条件が良いと言えそうです。しかし、個人的には、この流星群は観察しようとしても、天気が悪くて見ることができなかったという思い出が多く、滅多に見られない印象の強い流星群です。そこで、過去15年(2008年~2022年)の気象データ(※2)から、彦根地方気象台における「ペルセウス座流星群」の極大日の天気を調べてみました。その結果、一晩中快晴だったのは2013年のみ、また、2016年も雲量が少なく、かなり良い条件で観測できたと思いますが、その他は曇りや雨の年がほとんどで、時折晴れ間からなんとか見えそうな年が数年ある、といったところでした。8月といえば太平洋高気圧に覆われて晴れる日が多いですが、一方で台風の接近や大気の状態が不安定となり積乱雲が発生することも多いため、やはり見ることができたらラッキーな流星群なのかもしれません。

        ちなみに、流星群を見る際は、できるだけ空の広い範囲に注意を向けると、より多くの流星を捉えられる確率が高くなります。ですので、今回においては、ペルセウス座の方向を知らなくても特に問題はありません。それよりも、観測する場所として、空が広く見渡せる場所を選んでいただけたらと思います。

        (※1) 流星群自体の活動が最も活発になる時期のこと。

        (※2) 気象庁|過去の気象データ検索 (jma.go.jp) より

        令和5年 8月

        彦根地方気象台

        寺島 萩人


    • 令和5年7月「台風の名前」
      • 台風第2号
        台風第2号(2023年5月31日15時)

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の山﨑誠導です。

        みなさんは台風に第1号、第2号などの番号以外に国際的に使用される個別の名前があることをご存じでしょうか。台風には1999年までアメリカ軍によって人名(伊勢湾台風は「Vera」、第2室戸台風は「Nancy」など)が付けられていましたが、台風防災に関する各国の政府間組織である台風委員会(日本含む14か国・領域)は、台風が襲来するアジアの人々が、国・地域の文化の尊重と連携の強化や人々の防災意識を高めることを目的として、2000年から台風にアジアの言葉による名前を付けることになりました。

        台風の名前は、1つの国・領域がそれぞれ10個提案しており、14×10個のリストを台風が発生する毎に順次使用しています。使用順は、カンボジア→中国→北朝鮮→香港→日本→ラオス→マカオ→マレーシア→ミクロネシア→フィリピン→韓国→タイ→アメリカ→ベトナム→最初に戻る です。ちなみに日本の提案した名前は星座名で、当初の10個は「テンビン」「ヤギ」「ウサギ」「カジキ」「カンムリ」「クジラ」「コップ」「コンパス」「トカゲ」「ワシ」でした。これは特定の法人や個人、商標、地名、天気現象でない中立的な名称であること、自然の事物であって利害関係が生じないこと、人々に親しまれている観点から選ばれました。

        ところが大きな災害をもたらした台風名を以後使用しないよう変更することがあり、これまでに延べ58個の名前が別の名前に変更され、他にも8個が発音上や宗教上から変更されています。日本の星座の名前も例外でなく、「テンビン」は「コイヌ」に、「カンムリ」は「コト」に、「コップ」は「コグマ」に、「ワシ」は「ハト」そして「ヤマネコ」に変更されました。また「コンパス」は令和3年台風第18号であってフィリピンで大きな災害をもたらしたため変更予定となっています。

        星座名以外のアジア名は馴染みのないものばかりですが、台風が発生した際には、名前と由来、国名・地域名を見ていただきたいと思います。そして、気象庁の台風予報は5日先まで予報していますので、今後の予想位置を確認し、滋賀県に影響がありそうな場合には防災対応の準備を早めに始めていただき、自身の生命や財産を守る行動をお願いします。

        ちなみに6月2日の大雨の原因となった台風第2号の名前は、No.134「マーワー」で、マレーシアの言葉で「ばら」でした。

        気象庁HP(台風の番号とアジア名の付け方)

        気象庁HP(過去の台風番号と名前の対応表)


        令和5年 7月

        彦根地方気象台

        山﨑 誠導


    • 令和5年6月「小鮎釣り」
      • 小鮎 河川防災カメラ画像
        R5年6月4日 犬上川 河川防災カメラの画像
        画像中の黄色矢印先は小鮎釣り最中の筆者

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の大溝英哉です。

        滋賀県で早春から夏にかけての風物詩というと小鮎釣りではないでしょうか。そう思っているのは釣り好きの私だけかもしれませんが・・・

        彦根に赴任する前ですが、海釣りに行くときは若狭の海に出かけてました。自宅は岐阜市にあるので伊吹山のふもとを通り、国道8号線を通って福井県に抜けます。その際、長浜市塩津の大川で小鮎釣りをしている釣り人が目に入り、以前からとても気になっていました。その思いが通じたのか昨年春、彦根に異動になり、彦根市内を流れる芹川、犬上川で釣り糸を垂れることができ、うれしい限りです。釣果は家族の口に天ぷらとして届くくらいは確保できているのかな?

        さて、川の釣りでは川の水位が重要です。水位が高すぎると危険ですし、低すぎると釣りになりません。川のそばに住んでいれば散歩がてら川の様子を見に行けますが、そうでない場合は、川に行ってみてがっかりということもあります。

        そんな時役に立つのが「滋賀県土木防災情報 河川防災カメラ」です。県内の各河川の画像(静止画像)と水位を確認することができます。事前に確認しておけば無駄足を運ぶこともありません。このサイトは過去数日分のデータも閲覧できるので、自分の釣果とその時の川の水位を確認しておくと次回の釣果につながるのではないでしょうか。

        しかしながら本来の河川防災カメラの設置目的は、河川の危険度を監視するためです。特に、川のそばに住居を構えている皆さんには、大雨が降った時、川の状況をこのサイトを利用し把握していただきたいと思います。もし、川の画像や水位がいつもと違うと感じた時は、早めの避難行動に移してもらえるとありがたいです。


        令和5年 6月

        彦根地方気象台

        大溝 英哉


    • 令和5年5月「長周期地震動に対する情報の改善」
      • 長周期地震動階級
        長周期地震動階級
        詳細は気象庁HPリーフレットをご確認ください

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の小原です。地震に関する業務を主に担当しています。

        気象庁では今年2月1日から地震関係における情報の改善を実施しており、その中で長周期地震動に関する内容があります。

        長周期地震動とは、大きな地震が発生した時に生じる周期の長い大きな揺れのことで、高層ビルの上層階では長周期地震動により地上よりも大きく、長時間揺れ続けて被害が出ることがあります。平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震では震源から離れた関東地方の高層ビルなどで被害が発生しています。気象庁では、地上とは異なる揺れによる被害の程度を表現するために長周期地震動階級を導入していますが、今年2月の改善で緊急地震速報(警報)の発表基準に長周期地震動階級3以上が予想された場合を追加しました。

        発表基準の変更で何か対応が変わるのか心配されるかもしれませんが、緊急地震速報を見聞きしたら、これまで通り自分の身を守る行動を取ることに変わりはありません。また、長周期地震動に関する観測情報の提供も地震発生から10分程度に迅速化することによって高層ビルの管理者などに被害発生の可能性を早く伝えることができるようになりました。

        いざという時に困らないように防災訓練への参加や日頃の備えを考えてみてはどうでしょうか。


        令和5年 5月

        彦根地方気象台

        小原 久典


    • 令和5年4月「晩霜害について」
      • 茶畑

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の中江祥浩です。防災関係機関との対応等の統括を担当しています。

        春は、移動性高気圧と低気圧が交互に日本付近を通過し、天気が数日の周期で変わります。移動性高気圧は晴天をもたらしますが、夜間には気温が下がって霜がおり(晩霜)、農作物に大きな被害をもたらすことがあります。

        滋賀県においては、琵琶湖から離れた地域で晩霜が発生しやすい傾向があります。甲賀市では茶の栽培が盛んですが、春は収穫時期でもあり、大きな影響を受けることがあります。近年では2019月、2021年に大規模な霜害が発生しました。また、野菜や花木、麦なども霜害の影響を受けます。

        一般に晴れの天気で、風が弱く、気温が3℃近くまで下がると霜がおりやすく、気象台では、晩霜による農作物の被害が発生するおそれのある場合には、霜注意報を発表します。霜注意報は、警報・注意報発表基準一覧表では“4月以降の晩霜”を対象として発表することとしていますが、近年の暖冬傾向による農作物の生育状況等の変化を踏まえ、毎年農政関係部局と協議を行って運用しており、今年は3月15日以降の晩霜を対象としています。

        霜注意報が発表されたら、農作物の管理にご注意をお願いします。


        令和5年 4月

        彦根地方気象台

        中江 祥浩


    • 令和5年3月「桜(ソメイヨシノ)の観測について」
      • 彦根地方気象台ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の加藤宏です。私は、観測・測器の業務を担当しています。昨年4月から初めて彦根で勤務し、早くも一年が過ぎ去ろうとしているなか、観測担当として季節の移り変わりの早さを日々感じているところです。

        気象官署で観測されている生物季節観測には、観測の基準となる標本木というものがあり、官署の構内や付近で観測しています。彦根地方気象台では、敷地内に桜の標本木※があり、1953年の観測開始から同じ樹木で観測を続けています。桜の寿命は、一般的に60年程といわれており、なかには100年を超える古木もあります。気象台で長年勤務されている方に聞くと、15年以上前に比べると樹木の大きさは小さくなってきているようです。

        一昨年の大雪で一部の枝が折損されましたが、樹木医に診てもらうと生命力は衰えていないとのことでした。今春もたくさんの花が咲いてくれるよう昨年末に不要な枝を適切に剪定しました。生命あるものは、普段の手入れが大事であると感じました。

        この原稿を作成している時点では、蕾は未だ固い状態ですが、既に開花に向かって成長が始まっています。桜の開花日は、標本木に5~6輪の花が咲いた日となり、彦根地方気象台で観測している桜の平年の開花日は、4月1日です。今年も元気に咲いてほしいと願っています。左の写真は、昨年満開になった標本木です。

        ※気象官署内あるいは付近の公園等で観測が可能で、将来にわたっても観測が継続可能な木を官署長が標本木として定めています。


        桜(昨年) 桜(今年)

        昨年満開となった標本木

        2023年3月16日現在のつぼみ

        令和5年 3月

        彦根地方気象台

        加藤 宏


    • 令和5年2月「おろし風」
      • 急がば回れ

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の佐藤兼太郎です。天気予報などを担当しています。

        さて、「急がば回れ」という諺があります。これは室町時代の連歌師、宗長の詠んだ短歌、「もののふの矢橋の船は速けれど急がば回れ瀬田の長橋」に由来すると言われています。この短歌にある、「矢橋」や「瀬田」は滋賀県にある地名です。昔、東国から近江を経て京へ行く場合、矢橋の港から大津へ、琵琶湖を船で渡る方法がありました。これだと、瀬田の橋を通る南迂回ルートより、早く京へ到着できました。しかし、比叡山を吹き降りる強風のために、船が出港できないばかりか、転覆することが度々あったそうです。危険な水路を進むくらいなら、遠回りでも、瀬田の橋を経由する陸路を行く方が、安全確実で結局は効率が良い。宗長の短歌は、こういうことを意味しているのでしょう。

        矢橋港の船に影響を与えたような、山を吹き降りる強風は、「おろし風」として日本各地で知られています。滋賀県で発生するおろし風の中で、最も有名かつ恐れられているものは、「比良おろし」です。比良おろしは、琵琶湖西岸の比良山地を吹き降りる強風です。北小松から和邇川にかけての比良山麓で、吹くことが多いと言われています。

        比良おろしによるとされる事故が、これまで度々起きています。そのひとつが琵琶湖遭難事故です。1941年4月、11人の学生が琵琶湖でボートの練習をしていました。今津を出発し大津へ向かっていましたが、途中で遭難してしまいました。捜索が行われましたが、全員の死亡が確認されました。強風に煽られ沈没したと言われています。2003年9月にも、強風により蓬莱沖でヨットが沈没し、死者や行方不明者が出ています(ヨットファルコン沈没事件)。

        鉄道も比良おろしの影響を受けます。比良山麓には湖西線が走っていますが、高架となっているうえに、真横から風を受けてしまいます。1997年6月には、比良駅に停車中の貨物列車が横転する事故が起こりました。最近では、強風の影響を軽減するために、比良駅から近江舞子駅までの区間の山側に、防風柵が設置されています。それでも、規制値を超える強風が吹くときは、湖西線は運休になることがあります。鉄道の安全運行のためには仕方のないことです。なお、大阪と北陸を結ぶ特急サンダーバードは、通常は湖西線を走っていますが、強風などで湖西線が不通の場合、琵琶湖線を走る迂回運転をします。

        気象台では、強風害のおそれがある場合、強風注意報や暴風警報などを発表しています。気象台の発表する気象情報に留意し、「急がば回れ」の精神で、賢く気象現象に向き合っていただけたらと思います。


        令和5年 2月

        彦根地方気象台

        佐藤 兼太郎


    • 令和5年1月「湖北の冬の風物詩」
      • オオワシの飛来日と平均気温 オオワシ

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の内藤健治です。観測予報管理官として観測や予報現業の総括を行っています。

        滋賀県では昨年末から北部を中心に雪や雨の降るぐずついた天気が多くなっていますが、ラニーニャ現象の継続により、大雪の傾向が予想される中、昨シーズンほどの大雪になっていないのは幸いです。

        さて、突然ですが「湖北の冬の風物詩」といえば皆さん何を思い浮かべられるでしょうか。彦根城内の松のこも巻き、余呉湖のワカサギ釣り、長浜の盆梅展、鴨鍋、鴨すきなどを思い浮かべられる方が多いのではないでしょうか。私の場合は、野鳥撮影を趣味としていますので、長浜市湖北町山本山のオオワシ(通称:山本山のおばあちゃん)の飛来を毎年楽しみにしています。

        湖北野鳥センターの記録によると、現在のオオワシは1997年に山本山で確認されて以後、今冬にかけて25年連続で飛来しています。オオワシはロシア東部のオホーツク沿岸部で繁殖し、冬季は餌を求めて南下してくると言われています。山本山には毎年11月下旬頃に姿を見せますが、オオワシの飛来日の傾向を見るため、記録の残る2008年度以降の飛来日とアメダス長浜の11月の平均気温の関係を調べてみました。

        図を見ますと2018年までは11月の平均気温が高いと飛来日が遅くなる傾向が伺えます。しかし2019年以降はこの関係性が崩れているように見えます。この要因については気候変動が影響しているのか、繁殖地における移動を始める時期の気温の影響なのか良くわかりませんが、来年も元気な姿を見せてくれることを祈るばかりです。

        毎年、同じ場所に飛来するオオワシの一方で、近年は迷鳥として、普段日本では見られないような珍しい野鳥も観測されています。滋賀県においては、一昨年11月には野洲川河口でソリハシセイタカシギ※1が、昨年11月には守山市でカナダヅル※2が見られました。迷鳥となる原因は台風やほかの鳥の群れに入る等、何らかの事故によるとされ、詳しいことはわかっていませんが、近年は2018年7月の西日本豪雨や2020年1月28日の四国での土砂災害警戒情報の発表等、これまでの経験を上回る大雨となることがあり、個人的には気候変動の関係もあるように思えてなりません。珍しい野鳥を見られるのは大変うれしいことですが、大雨や大雪等による災害は勘弁願いたいものです。

        ※1 ヨーロッパ、中央アジア、アフリカ中南部で局地的に繁殖し、冬季はインド西部や中国南部で越冬するといわれている。

        ※2 北アメリカとシベリア北東部極地で繁殖し、冬季はアメリカ南西部に渡ると言われている。


        令和5年 1月

        彦根地方気象台

        内藤 健治