中国地方の天候

詳細な説明


春の少雨 6月の降水量  夏の高温 冬の大雪 

春の少雨の背景

下層の水蒸気の流れと相当温位の偏差
 2009年5月(左図)と2013年5月の925hPaの水蒸気フラックス(矢印)、相当温位の平年からの差
※水蒸気フラックス:水蒸気の輸送量を矢印であらわしたもの  相当温位:温度と湿度に関する指標
2009年と2013年共に、西日本付近へは湿った空気が流れ込みにくく、水蒸気量が少なくなっていました。
  (相当温位は平年より低い場合に暖色、高い場合に寒色で現しています。
2009年は、大陸東岸付近に高気圧が位置することが多く、西日本付近からフィリピン付近にかけて、北東から南西へ向かう水蒸気の流れが見られました。2013年は、高気圧が日本付近に位置し、モンスーンに伴った水蒸気は、南シナ海から日本のはるか南に向かう流れとなっていました。

 5月の顕著な多雨の年と顕著な少雨の年の大気の流れの特徴

 5月に降水量がかなり多い年の合成図
5月に降水量がかなり少ない年の合成図  
      左は250hPaの東西風、右は外向きの長波放射(対流活動に対応し、寒色は対流活動が活発(降水量が多い)をあらわします)

中国地方で5月の降水量がかなり多い年には、日本付近の偏西風はやや蛇行して北側で強く、大陸東岸付近が気圧の谷場となっています。かなり少ない年は日本付近の偏西風は平年より弱く、南側では強い傾向があります。熱帯の対流活動はフィリピン付近ではどちらも活発になっています。その南のインドネシア近海ではかなり多い年には不活発で、かなり少ない年には海洋大陸(インドネシアからニューギニア島にかけての諸島や海洋を含めた領域)付近全体で活発な状態となっています。かなり多い年には太平洋中部熱帯域でも活発。逆に、かなり少ない年には不活発となります。インド洋では、かなり多い年にインド亜大陸付近の対流活動が活発となっています。

  降水量がかなり多い年の合成図

 降水量がかなり少ない年の合成図
                 200hPa(左)と850hPa(右)の循環偏差の合成図

 200hPaでは降水量がかなり多い年には、中東から日本付近にかけて高気圧性循環偏差と低気圧性循環偏差が交互に並び、大陸東岸付近に低気圧性循環偏差が位置して気圧の谷場となっています。一方、降水量がかなり少ない年にはインド洋北部からユーラシア大陸南部は広い範囲で高気圧性循環偏差が広がり、大陸東岸付近の高気圧性循環偏差が顕著となっています。日本の南東側には低気圧性循環偏差が位置しています。

下層(850hPa)では、かなり多い年には日本の南から東海上にかけて高気圧性循環偏差が位置し、湿った気流が入ります。かなり少ない年にはその逆の分布が見られ、日本を挟んで北西側に高気圧性循環、南東側に低気圧性循環が見られます。

   降水量がかなり多い年の合成図

  降水量がかなり少ない年の合成図
                       500hPa高度(左)と850hPa気温(中)、地上気圧(左)の合成図


500hPa高度では降水量がかなり多い年には、大陸東部が平年より高度が低く、日本の南海上や東海上は高くなります。かなり少ない年にはこの逆の傾向が見られます。対応して850hPa気温においても概ね日本付近を挟んで北西側と南東側に別れ、降水量がかなり多い(少ない)年は、北西側で低く(高く)南東側で高くなります(低い)。地上気圧ではカムチャツカ半島の東(アリューシャン付近)の気圧差が顕著で、降水量がかなり多い(少ない)年には、低圧部(高圧部)となります。日本付近ではかなり多い年には南東側に高圧部、日本付近を含み大陸東部が低圧部で湿った気流が流れ込みます

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6月の降水量が多雨の年と少雨の年の熱帯の対流活動

熱帯(フィリピン付近)の対流活動と日本付近の梅雨前線の位置
 6月に降水量が多い年(左)と少ない年(右) 寒色は対流活動が活発、暖色は不活発をあらわす。
 この時期の降水量は、熱帯の対流活動との関係があることが知られています。上の図は外向き長波放射量(OLR)の平年差で、左が中国地方で降水量が多い年、右が降水量が少ない年を合成したものです。青色(赤色)の部分が平年より対流活動が活発(不活発)であることを示しています。
特徴的なのは、降水量が多い年はフィリピンの近海で対流活動が活発になっていることです。逆にインド洋では対流不活発な状況が見られます。この図から、梅雨前線の位置の違いも確認できます。
 地上気圧の平年からの差(前のページ)と合わせて考えると、フィリピン近海での対流活動活発に伴い、強い上昇気流が発生し、上昇した空気が日本の南で下降気流となることで、この付近への太平洋高気圧の張り出しを強めています。

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夏の高気圧が発達する背景

太平洋高気圧の発達

8月のフィリピン付近の対流活動と850hPa高度との回帰係数(1979~2013)

8月のフィリピン付近の対流活動と850hPa気温との回帰係数関係(1979~2013)

PJパターンの概念図

フィリピン付近の対流活動とテレコネクション(PJパターン)

  夏にフィリピン付近で対流活動(積乱雲の活動)が活発になると、本州付近の高気圧が強まり、気温が高くなるという相関関係があります。このような相関関係はテレコネクションと呼ばれ、そのうちでこのパターンをPJ(Pacific-Japan)パターンと呼んでいます(Nitta, 1984)。

  波のエネルギーの伝播によるほか、東アジアでは、このパターンを増幅させやすい大気の流れになっていることが、頻繁にPJパターンが見られる背景にあると考えられます。

   
8月に現れやすい偏西風の蛇行(シルクロードパターン)(小坂,2011)
(上図)200hPaの循環偏差と波の活動度フラックス、(下図)北緯40度の循環偏差と波の活動度フラックス断面図
※循環偏差:風の回転成分をあらわしたもの 波の活動度フラックス:波のエネルギーが伝わる様子を矢印であらわしたもの
     背の高い高気圧の断面図

地上気温(32.5~37.5N、130~140E)と流線関数(130~140E)の回帰係数分布(8月前半)(95%有意な領域に陰影を付加)


日本付近でのチベット高気圧の強まりは、偏西風(亜熱帯ジェット気流)の蛇行によってもたらされることが多くなります。
偏西風の蛇行はアジア西部から波のエネルギーの伝播(準定常ロスビー波束伝播)によって伝わります。偏西風が8月の気候的状態であれば、日本付近が気圧の尾根になりやすくなります。 左上図では、ヨーロッパから日本付近にかけてHとLが交互に連なり、これらを流す偏西風が蛇行します。下図(断面図)においても、H とLが東西に交互に連なって東進していることが分かります。

背の高い高気圧と夏の猛暑  

 

 平年の模式図

 チベット高気圧が強まった年の模式図

平年の8月は、上層のチベット高気圧と下層の太平洋高気圧が重なって背の高い高気圧となって日本を覆います(左図)。

チベット高気圧が強まると、偏西風が蛇行し、日本付近が気圧の尾根となって強固となり、晴れの日が続き、気温の高い日が続きます(右図) 。

盛夏期に、背の高い高気圧に覆われると、晴れて気温の高い日が続き、猛暑となります。上層のチベット高気圧と下層の太平洋高気圧が日本付近で共に強くなると、連日の猛暑日となることがあります。

 

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2005年12月の大雪(平成18年豪雪)と2011年年1月の大雪の背景

2005年(平成18年豪雪時)12月の大気の流れ

2005年12月平均の500hPa高度

200hPaの循環偏差と対流活動

寒色(暖色)は対流活動活発(不活発)

2005年12月平均の500hPa高度では、極付近は正偏差(平年より高度が高い)の所が多い一方で、日本を含み、極東から太平洋にかけての中緯度帯は東西に広く負偏差(平年より高度が低い)が見られ、極付近の寒気が南下しました。

太平洋西部熱帯域では海面水温が高く、インド洋東部からフィリピン付近の対流活動が活発になっています。このため、ユーラシア大陸南部で偏西風は北へ蛇行、日本付近では逆に南に蛇行し、日本に寒気を引き込みました。

2011年1月の大雪の年の大気の流れ

2011年1月平均の500hPa高度

200hPaの循環偏差と対流活動

寒色(暖色)対流活動活発(不活発)

2011年1月平均の500hPa高度を見ると、極付近(赤点線内)から中緯度帯に寒気が南下しやすかった(青矢印)こと、中央シベリア~日本付近で偏西風が蛇行したことから、日本へ寒気が一層流入しやすくなりました。

太平洋西部熱帯域では海面水温が高く、インド洋東部からフィリピン付近の対流活動が活発となりました。このため、ユーラシア大陸南東岸で偏西風は北へ蛇行、日本の東海上では逆に南に蛇行し、日本に寒気を引き込みました。熱帯からの影響では、2005年12月と似た大気の流れが見られました。

ラニーニャ時の海面水温の平年偏差

2005年12月、2011年1月の大雪の背景
太平洋赤道域中部~東部で海面水温(SST)が平年より低く(青点線内)、西部太平洋熱帯域ではSSTが平年より高く(赤点線内)、ラニーニャ現象が発生していました。

ラニーニャ現象発生時には、フィリピン付近など太平洋西部熱帯域の海面水温が平年より高いことに対応して、この付近での対流活動が活発となり、日本付近に寒気を南下させやすい偏西風の蛇行が生じます。

一般に極付近の寒気がより南下しやすい状況であると寒い冬となります。極付近の寒気の南下は、負の北極振動が現われた時などに顕著となります。負の北極振動は、熱帯からの影響は明瞭ではありません。しかし、負の北極振動が明瞭ではない年でもラニーニャ現象が発生することにより、熱帯からの応答として、寒気をより南下させやすい大気の流れが現れ、寒い冬になることが多くなります。

引用文献

Nitta, T., 1987: Convective activities in the tropical western Pacific and their impact on the Northern Hemisphere summer circulation. J.Met.Soc.Japan, 65, 373-390.

Kosaka, Y., H. Nakamura, M. Watanabe and M.Kimoto, 2009:Analysis on the dynamics of a wavelike teleconnection pattern along the summertime
Asian jet based on a reanalysis dataset and climate model simulations.J.Meteor.Soc.Japan,87,561-580.

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