天気の部屋

ここでは、私たちの身のまわりに起こっている様々な自然現象がどのような仕組みによって発生しているのか、人々に被害をもたらすような現象から身を守るために気象台がどのような情報を発表しているのかを知ることができます。

漁火光柱
 -闇夜に現れた光の柱-

 2004年4月15日20時20分頃、松江地方気象台(以下、気象台)に「縦に延びる雲のようなものがいくつも見えます。これは一体何でしょうか?」との問い合わせがありました。その後も午前0時にかけて、同様な目撃情報が多数ありました。気象台での20時の目視観測では確認できませんでしたが、問い合わせの直後に確認してみると、北西から北北東にかけて、島根半島の北側に無数のうっすらと白い光の柱が確認できました。下の写真は松江市北陵町にあるソフトビジネスパークから北の方角(島根半島のある方角)を撮影したものです。わかりにくいかもしれませんが、夜空にうっすらと浮かぶ無数の白い光の柱が見えます(写真1)。

漁火光柱の写真

写真1 漁火光柱の写真

 この現象は、「漁火光柱」(いさりびこうちゅう)という現象であると考えられます。「漁火光柱」とは、上空に六角板状や六角柱状などの形をした氷晶が存在した場合に、漁船の漁火がそれらの氷晶に反射して柱状に見える現象です。

なぜ「漁火光柱」か?

 問い合わせがあった日の21時の地上天気図(図1)をみると、西日本は日本の東海上に中心を持つ高気圧と、長江河口沖に中心を持つ移動性高気圧に挟まれた低圧部に位置していました。一方、図2の500hPa面(上空約5700m付近)の高層天気図では、朝鮮半島付近に気圧の谷があり、西日本は気温と露点温度の差が3℃以下の湿度の高い領域(湿域)に覆われていました。また、図3の米子の高層気象観測における気温と露点温度の鉛直分布を見ると、高度約4900mより上空では-12℃以下で気温と露点温度の差が小さな湿潤層となっており、それより下層は乾燥しています。このことから、4900mより上空では上層雲が広がっていたということが推定できます。

当日の地上天気図

図1 2004年4月15日21時の地上天気図

当日の500hPa高層天気図

図2 2004年4月15日21時の500hPa高層天気図

 また、気温が-9.5℃~-22℃では角板状の雪結晶が成長すると言われています。図3から氷晶が存在する高度を5kmと仮定すると、気象台からは光柱は仰角が20~28°の位置に見られたため、気象台からこの光柱の海上の光源までの水平距離は19~27kmであった計算できます※。JFしまね恵曇支所(島根県松江市鹿島町恵曇)によれば、この日は、恵曇港沖では小型底引き網漁、沖合底引き網漁、一本釣り漁、イカ釣り漁などが、海岸から数km~数十km沖合で行われていたとのことです。したがって、漁船の操業場所までの距離は、上で推定した光源までの水平距離とほぼ一致しており、図4の概念図に示すように、一本釣り漁業やイカ釣り漁業などの漁火(光源)が上空の氷晶に反射したために起きた漁火光柱と思われます。
酒田沖の事例もあります→酒田沖の漁火光柱(2001年6月14日)

※氷晶の高度(H),仰角(θ)と光源までの距離(L)の関係:L=2×H÷tanθ

当日の米子上空の気温と露点温度のグラフ

図3 2004年4月15日21時米子の気温と露点温度の鉛直分布

図4 漁火光柱の概念図

 本稿を作成するにあたり、情報提供していただいた皆様及びJF島根恵曇支所に厚く御礼申し上げます。