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副振動(あびき)

あびきとは長崎湾で発生する副振動のことをいい、30~40分周期で海面が上下振動します。過去には大きなあびきで係留していた船舶の流失や低地での浸水被害が発生しています。 あびきの語源は速い流れのため魚網が流される「網引き」に由来すると言われています。現在は長崎に限らず、九州西方で発生する同様な現象に対して広く用いられるようになっています。
副振動とは数十分周期の港湾の振動で、長方形の容器に水を入れ、一方の端を持ち上げて少し傾けてから元に戻すとしばらく水全体が左右に振動するのと同じ現象です。

気象庁長崎検潮所(長崎市松ヶ枝町)で観測された過去最大のあびきの例を示します。このあびきは1979年(昭和54年)3月31日に発生し、最大全振幅は278cm、周期は約35分でした。図の縦軸は観測基準面(DL)からの高さです。

画像の注釈:1988年(昭和63年)3月16日のあびきで、海水が浦上川を遡っている様子

あびきの発生月

「あびき(100cm以上)」の発生月は冬から春にかけて多くなっています。特に3月は飛び抜けて多く、全体の約50%を占めています。

あびき発生時の天気概況

「あびき(100cm以上)」が発生した時の天気概況は、九州の南海上を低気圧が通過した場合が最も多く、次に九州の南海上に前線が停滞していた場合となっています。

あびきの発生原因

あびきは東シナ海大陸棚上で発生した気象現象の擾乱(じょうらん)による気圧の急変が原因とされています。これによって発生した海洋長波が海底地形などの影響を受けて増幅していきます。湾内に入った海洋長波は共鳴現象などの影響を受けてさらに増幅し、湾奥では数メートルの上下振動になることがあります。
Hibiya and Kajiura (1982)による数値シミュレーションから、1979年(昭和54年)3月31日に発生した過去最大のあびきは、東シナ海をほぼ東向きに約110km/hで進行した振幅約3hPaの気圧波によっておこされたことがわかっています。

2004年3月1日の例

2004年2月29日~3月1日の長崎、種子島、枕崎、油津の各検潮所におけるあびき(副振動)の時系列を示します。横軸は時間で30分間隔です。また、縦軸は東京湾平均海面(TP)上の潮位で、5cm間隔です。 各地とも最大全振幅は3月1日午前1時前後に発生しています。最大全振幅及び周期は次のとおりです。

長 崎 137cm 35分

種子島 100cm 12分

枕 崎 160cm 20分

油 津 100cm 22分

2004年2月29日09時

2004年2月29日21時

2004年3月 1日09時

2004年2月29日から3月1日にかけては九州付近にあった停滞前線が次第に南下し、大陸から高気圧が張り出してくる気圧配置でした。

2004年3月 1日09時

長崎海洋気象台の観測値をみると、2004年3月1日午前0時頃と3時頃に気圧の急変がみられます。

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参考文献
寺田一彦,安井善一,石黒鎮雄(1953) 長崎港の副振動について.長崎海洋気象台報告, 4, 1-73.
赤松英雄(1978) 長崎港のあびき.長崎海洋気象台100年のあゆみ, 154-162.
赤松英雄(1982) 長崎港のセイシュ(あびき).気象研究所研究報告, 33, 95-115.
西部海難防止協会(1982) 津波(長崎港アビキ)対策委員会報告書, 77-78.
HIBIYA, T. and K. KAJIURA (1982) Origin of the Abiki Phenomenon (a kind of Seiche) in Nagasaki Bay.J. Oceanogr. Soc. Japan, 38, 172-182.
小長俊二,半沢洋一,富山吉祐,高浜 聡(1990) 長崎港の"あびき"について.海と空, 65, 203-222.
志賀 達,市川真人,楠元健一,鈴木博樹 (2007) 九州から薩南諸島で発生する潮位の副振動の統計的調査. 気象庁測候時報第74巻特別号
福岡管区気象台,長崎海洋気象台(2007) 異常気象レポート九州・山口県版2006, 46-49.

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