高層気象台彙報 第71号

収録内容

高層気象台彙報 第71号 2013年3月
題  目 著  者
まえがき 下道 正則
視線方向データを用いたドップラーライダーの風ベクトル算出 [要旨] 星野 俊介・岩渕 真海
分光型全天日射計(MS-710)の測器常数較正とつくばにおける太陽光スペクトルの試験観測 [要旨] 居島 修・島村 哲也
筑波山におけるラングレー法を使用したPFR 測器常数の較正試験 [要旨] 島村 哲也・居島 修
ドブソン分光光度計の光学くさびの透過特性 [要旨] 江崎 雄治・押木 徳明
ドブソン分光光度計の光学くさびの汚れに対するオゾン全量観測値の補正手法の開発 [要旨] 押木 徳明・江崎 雄治
波長別紫外域日射観測表示プログラムと参照スペクトルの改訂 [要旨] 能登 美之
ブリューワー分光光度計で観測した天頂光O3 観測値の再計算プログラムの開発 [要旨] 上里 至
つくばにおけるブリューワー分光光度計を使用した波長別全天・散乱・地面反射紫外線量の季節変化2004~2012 年 [要旨] 伊藤 真人・居島 修・島村 哲也・上里 至・能登 美之・江崎 雄治・押木 徳明
GRUAN ICM-4 でのサイトビジットにおける高層気象台(館野)への訪問者リスト 森 一正

要旨一覧

題目
視線方向データを用いたドップラーライダーの風ベクトル算出
著者
星野 俊介・岩渕 真海
要旨

高層気象台では,2009年12月にドップラーライダーが整備され,下層大気の風の観測を行っている.機器に付属する処理プログラムにより得られる水平風データの精度については高層気象台(2011)や岩渕(2012)において既に報告されているが,後者では視線方向のドップラー速度データを用いて独自に算出することによる精度の向上が期待されるとの言及がなされている.本研究ではこの提案を受け,視線方向データを用いて独自にVAD法による算出を行い,その結果に対して(1)平均S/N比,(2)VAD法による算出に使用したデータの個数および(3)VAD曲線へのフィッティングにおける自由度調整済み決定係数を用いた品質評価を行って風ベクトルを算出し,その精度を検証した.その結果,全体として精度が向上し,特に高高度層における風向精度に大きな改善がみられた.

題目
分光型全天日射計(MS-710)の測器常数較正とつくばにおける太陽光スペクトルの試験観測
著者
居島 修・島村 哲也
要旨

分光型全天日射計(MS-710)の光学特性を把握するとともに,標準光源を用いた測器常数の較正を試みた.この較正を定期的に実施し,測器感度の変化量を求め,これらの較正結果から日々の波長別測器感度を決定した.測定値についてデータのノイズ補正,高度角特性の補正,温度特性の補正を行った後,波長別測器感度から波長別放射照度を算出し,つくばにおける太陽光スペクトルの試験観測を実施した.その結果は以下のとおりである.

1) 当測器の波長分解能の試験を実施し,分解能が5nmであることを確認した.また,高度角特性の再試験を実施し,各波長において最適な露光時間での高度角特性を求め,その補正方法を確立した.

2) 当測器の較正には,世界的に標準光源として認められているNISTランプ(米国国立標準技術研究所:National Institute of Standards and Technologyで波長別に照度が値付けられた1,000Wハロゲンランプ)を使用し,このNISTランプ検定によって当測器の波長別測器感度を決定した.また,NISTランプ検定を定期的に実施した結果,半年間で約2%の測器感度の低下を確認した.

3) 測定ノイズによるデータのばらつきに対して平滑によるノイズ補正を行った後,約0.7nm毎の測定値を1nm毎に変換した.さらにこの測定値に高度角補正及び温度補正を施し,波長別測器感度から波長別放射照度を算出した.

4) つくばにおいて太陽光スペクトルの試験観測を約1年4ヶ月間実施した.波長別放射照度の季節変化では,長い波長は水蒸気に吸収されるため,水蒸気量の多い夏季に低い値を示した.

以上のように,本調査では,当測器の各種光学特性を明らかにしたうえで,測器常数の較正方法を開発することができた.さらに,つくばにおける試験観測によって,波長別放射照度の日変化及び季節変化の概要を明らかにすることができた.

題目
筑波山におけるラングレー法を使用したPFR 測器常数の較正試験
著者
島村 哲也・居島 修
要旨

WMOは,サンフォトメータの測器感度の安定性が年2%未満であることを求めており,日々の観測において,ラングレー法による測器常数の確認が可能なデータの取得を勧告している.本調査では,高層気象台で観測に用いているPFR(Precision Filter Radiometer)型サンフォトメータについて,測器常数の変化の確認が可能かどうか検討するため,2013年1月28日~2月1日に観測条件の良い筑波山で観測を行い,ラングレー法による検定を実施した.その結果,当測器の常数は,世界放射センター(WRC:World Radiation Center)であるダボス物理気象観測所(PMOD:Physikalisch-Meteorologisches Observatorium Davos)で較正された測器常数に対し,最も観測条件の良かった1月29日午前において,1%未満の誤差となりほぼ一致した.

題目
ドブソン分光光度計の光学くさびの透過特性
著者
江崎 雄治・押木 徳明
要旨

ドブソン分光光度計の光学くさびの透過特性(濃度の勾配)の変化を確認するには2ランプ点検(気象庁:1991)が用いられているが,強い光源の光を長時間導入するため,点検後の測器感部(光電子増倍管;PMT)の安定に時間を要するという問題点がある.そこで,新たに簡便な手法として光学くさびを透過した観測波長の紫外光の強さ(PMTの出力)を直接測定し,光学くさびの透過特性を評価した.その結果,PMTへの印加電圧を適切に選べば,光学くさびの濃度勾配と透過光強度には一定の範囲で直線性の関係が認められた.また,透過光強度の測定値のばらつきは,変動係数の平均で約3%となり,良い再現性を示した.当測定による光学くさびの透過特性は,2ランプ点検と比較してほぼ一致したが,ノイズや測定誤差と考えられる違いも認められた.

題目
ドブソン分光光度計の光学くさびの汚れに対するオゾン全量観測値の補正手法の開発
著者
押木 徳明・江崎 雄治
要旨

ドブソン分光光度計の光学くさび上に汚れが付着した場合,光学くさびの濃度勾配に変化が生じ,観測値の補正を検討する必要がある.本稿では,実際にこの汚れが確認された札幌管区気象台(以下,札幌という)の測器D126(Dに続く数値は測器番号を示す.以下,D126という)を対象とし,(1)光学くさびの濃度勾配の変化を詳細に調査し,(2)経年的な汚れの変化傾向を客観的に確認しながら観測値を補正する手法を開発するとともに,(3)当測器とアジア地区準器D116との比較観測を高層気象台において実施し,本手法による補正の有効性を確認した.さらに,(4)本手法を適用して2009年7月から2012年10月までの札幌のオゾン全量観測値の補正を行い,日代表値で最大+2.7%,月平均値で最大+1.8%の補正結果を得た.

題目
波長別紫外域日射観測表示プログラムと参照スペクトルの改訂
著者
能登 美之
要旨

ブリューワー分光光度計を用いた波長別紫外域日射観測表示プログラム(以下表示プログラム)は,観測スペクトルのリアルタイムの表示,時系列データの表示,日・月観測表の印刷などの機能を備えて,観測結果の監視や品質管理などの定常観測業務の補助となってきた.しかし,ブリューワー分光光度計をMKⅡからMKⅢへ更新して観測可能な波長範囲が拡大したことや,紫外線情報提供におけるUVインデックスの導入などで,従来のプログラムを改訂する必要が生じた.そこで,表示プログラム改訂して,データ処理や表示機能を増やすとともに,基準となるスペクトル(以下,参照スペクトル)を放射照度データから再計算した.その結果,①スペクトルの表示波長範囲の拡大,観測時間の拡大表示,点検結果の表示項目の拡大などで今後の実況監視を容易にすることができた.さらに,②観測点毎に放射照度データを用いた参照スペクトルを作成して比較したところ,それぞれの観測点における大気の観測環境の特徴が相対的に明らかになり,共通の参照スペクトルがあれば,統一した基準で観測スペクトルを評価できる可能性があることが分かった.

題目
ブリューワー分光光度計で観測した天頂光O3 観測値の再計算プログラムの開発
著者
上里 至
要旨

ブリューワー分光光度計MKⅡのO3・SO2観測値には,測器内部のカットオフフィルターの劣化に伴う観測誤差が含まれており(伊藤・宮川:2001),前報告(上里:2012)では,ブリューワー分光光度計MKⅡの標準ランプ点検値を使用して直射光O3・SO2観測値の補正を行うプログラムを開発した.しかし,実際には天頂光O3・SO2の観測も行われているため,本稿では,その観測値について再計算を行える処理を追加させた.この天頂光O3観測値の再計算処理では,内部標準ランプ点検値を用いた補正の他に天頂光係数の算出を行う処理も加えた.その結果,天頂光O3観測値を即時的に再計算できるようになり,これまでの作業量を省力化できるようになった.

題目
つくばにおけるブリューワー分光光度計を使用した波長別全天・散乱・地面反射紫外線量の季節変化2004~2012 年
著者
伊藤 真人・居島 修・島村 哲也・上里 至・能登 美之・江崎 雄治・押木 徳明
要旨

ブリューワー分光光度計を改造して地面反射波長別紫外線量(RFuv)の観測を2003年12月に,またブリューワー分光光度計用自動遮蔽装置を開発し散乱波長別紫外線量(DFuv)の観測を2005年8月より開始した.本稿では,現在までに蓄積された約9年間(DFuvは約8年間)のデータにより,両成分の年変化の特性について全天波長別紫外線量(GLuv)や全天・散乱・地面反射日射量(GLsolar,DFsolar,RFsolar)との比較を行った.これらは,以下のようにまとめられる.

(1) GLuv,DFuv,RFuvの年変化は,GLsolar,DFsolar,RFsolarとはそれぞれ異なった特徴を持つ.(2) DFuvの経年変化は,DFsolarがほぼ一定で変化が認められないのに対し,2006年以降,若干の増加傾向を示す.(3) RFuvの年変化や経年変化は,積雪や植物の生育状況に大きく左右される.RFsolarでは,これらの影響は少ない.(4) RDFuvは,年変化を持たず約0.84(84%)の年間を通してほぼ一定で推移する.これに対し,RDFsolarは年変化を有し,年平均約0.61(61%)を示す.(5) RRFuvは0.02(2%)を示し,RRFsolarが0.21(21%)を示すのに対し低い値をとる.また,RRFuvは微弱な波長依存性を持ち,長波長側で若干大きくなる.(6) 紫外線量の各成分の割合は,GLuvを100%とするとDRuvが約20%,DFuvが約80%,RFuvが約2%となり,日射Solarの場合の約50%,約50%,約20%と大きく異なる.

以上にように,GLuv,DFuv,RFuvの年変化と経年変化の特徴を把握することができた.今後,これらのデータが,衛星観測の地上較生,エアロゾル挙動の研究,植物生育の研究等々の分野において利用されることを期待したい.