高層気象台彙報 第76号

収録内容

題目をクリックすると、pdfファイルで全文を読むことができます。

高層気象台彙報 第76号 2019年3月
題  目 著  者
まえがき 里田 弘志
口絵 成田 修
Cryogenic Frost point Hygrometer (CFH)とGPSゾンデの比較観測の実施 [要旨] 古林 絵里子
オゾン全量観測測器の特性調査 [要旨] 高野 松美・中野 辰美・上野 圭介・藤原 宏章
メルボルンにおけるWMOドブソンオゾン分光光度計の国際相互比較 [要旨] 清水 悟・上野 圭介
ドブソン分光光度計の光学くさび透過特性点検の改良と検証 [要旨] 藤原 宏章・中野 辰美・上野 圭介
分光放射計の校正手法の開発 [要旨] 居島 修・高野 松美

要旨一覧

題目
Cryogenic Frost point Hygrometer (CFH)とGPSゾンデの比較観測の実施
著者
古林 絵里子
要旨

高層気象台(Tateno)は2009年9月から全球気候監視システム基準高層気象観測網(GRUAN)の観測サイトとして活動をしており,毎日2回GPSゾンデによる観測を実施しているほか,2015年からはGRUANで要求されている高性能基準ゾンデによる観測として,鏡面冷却式露点霜点計(CFH)を使用したGPSゾンデとの比較観測を年2回実施している.CFHの観測データは同時に飛揚するGPSゾンデのデータから作成したGRUANデータプロダクトの相対湿度の精度評価に使用されており,2016年~2018年に実施された比較観測データを解析した結果,RS-11G型GPSゾンデとiMS-100型GPSゾンデの相対湿度について,高度2000mより下層ではCFHに比べて1~5%RH低く,5000m付近では逆に1~2%RH程度高い特性が見られた.また,RS92-SGP型GPSゾンデについては他のゾンデに比べてCFHとの差が小さい結果となった.GRUANの目的は長期的な高精度の気候データの提供であるため,本研究で得られた各GPSゾンデの特性をGRUANデータプロダクトの精度向上に役立てることが重要であり,そのためには引き続き高性能基準ゾンデとGPSゾンデとの比較観測によるGRUANデータプロダクトの評価・検証を行う必要がある.

題目
オゾン全量観測測器の特性調査
著者
高野 松美・中野 辰美・上野 圭介・藤原 宏章
要旨

現在気象庁では,オゾン全量観測用の測器としてドブソン分光光度計およびブリューワー分光光度計が使用されている.しかし,両測器の観測値には差異があることが,世界気象機関(WMO)で報告されている.そこで,札幌,つくばおよび那覇の3地点で観測された過去資料からその差異を求め,測器間の特性を調査した.その結果は以下のとおりである.

  1. 1) 両測器間の観測値には3地点の年平均で約1.0%の差があり,それは,ブリューワー分光光度計の観測値がドブソン分光光度計よりも大きく,両測器間には系統的な差があることが確認された.また,この系統的な差には季節変動があり,その差は冬が夏よりも大きく,また高緯度地点で明瞭だった.
  2. 2) オゾン全量算出に関わるオゾン吸収係数には,波長依存性および温度依存性があるため,これらを考慮して観測値を補正した.その結果,補正前よりも,全体的に系統的な差の絶対値が小さくなり,季節変動の幅も小さくなった.これらの結果より,係数の見直しには両測器間の系統的な差を軽減する効果があると評価した.
題目
メルボルンにおけるWMOドブソンオゾン分光光度計の国際相互比較
著者
清水 悟・上野 圭介
要旨

高層気象台が維持管理するドブソン分光光度計アジア地区準器の校正のため,オーストラリア・メルボルンのオーストラリア気象局において2017年2月13日から24日の日程で開催されたWMOドブソンオゾン分光光度計国際相互比較に参加し,ドブソン分光光度計世界第一準器との比較観測を実施した.太陽直射光によるアジア地区準器のオゾン全量は世界第一準器より0.76%だけ大きく,3年前に決定された測器常数の変化は求められる精度範囲内であり,アジア地区準器は良好な精度で維持されていたことが示された.

題目
ドブソン分光光度計の光学くさび透過特性点検の改良と検証
著者
藤原 宏章・中野 辰美・上野 圭介
要旨

ドブソン分光光度計の光学くさびの透過特性を把握する手法のうち直接法について,点検の全自動化,暗電流の取り扱いの精緻化,S/N比の小さなデータの除外を行うことで,より効率的で,高精度な点検が可能となった.この手法により5台のドブソン分光光度計を用いて精度検証を行い,いずれの測器に対しても再現性の高い点検結果が得られることを確認した.また,直接法は従来法(2ランプ点検)と比較し,得られるデータの変化率の変動が大きいが,これは実際の光学くさびの透過特性の特徴を表現していることと示唆された.

直接法によりG表(光学くさびの濃度と放射照度の関係,R-N表の基となる)を作成し,2ランプ点検を用いてリニアリティの確認を行ったところ,直接法では光電子増倍管の出力損失の影響を受け,従来法と比較して積分された放射照度比の低下が見られたが,光電子増倍管のリニアリティ補正式を用いることにより放射照度比の低下を改善することができた.

題目
分光放射計の校正手法の開発
著者
居島 修・高野 松美
要旨

下向き放射及び反射日射の測定に使用している分光放射計について,温度特性,入射角特性及び検出器の特性を調査し,これらの特性を補正する手法を開発した.次に分光放射計の測定値から波長別放射照度を算出するための手順を作成した.さらに,これらの新たに開発した校正手法を適用し,高層気象台における2017年1月~2018年11月の下向き放射の波長別放射照度を算出するとともに,広帯域型日射計の放射照度と比較を行い,その精度評価を行った.これらの主な結果は以下のとおりである.

  1. 1) 分光放射計の特性調査及び補正手法の開発

    分光放射計の温度特性及び入射角特性を調査し,それぞれの測器についてこれらの特性を補正する手法を開発した.検出器の特性については,検出器の安定性及び直線性を調査し,検出器の安定性では,バックグラウンドノイズの測定値への影響を評価した.検出器の直線性では,産業技術総合研究所の協力を得て,検出器の直線性検査を実施し,非直線性を考慮した測定値の補正式を決定した.紫外域については簡易的な迷光補正を行った.

  1. 2) 波長別放射照度の算出手順の作成

    温度特性,入射角特性及び検出器の特性を考慮して分光放射計の測定値(count値)を補正後,波長別測器感度を用いて波長別放射照度を算出する手順を作成した.また,観測波長範囲の異なる3種類の分光放射計の波長別放射照度を合成し,観測値の接続を試みた.

  1. 3) 新たに開発した校正手法を適用した観測値の精度

    2)の手順で2017年1月~2018年11月の下向き放射の波長別放射照度(300nm~2500nm)を算出し,新たに開発した校正手法を適用した観測値について,広帯域型日射計で観測した放射照度との比較により精度評価を行った.その結果,分光放射計の全波長の積算値は,測定値を補正した場合,全天日射では0.7%,直達日射では1.0%改善された.