解説

東海地方の夏の顕著な高温について

夏に日本付近に顕著な高温をもたらす大規模な大気の流れ

 上層のチベット高気圧や太平洋高気圧の日本付近への張り出しが平年より強まると、日本付近が背の高い高気圧に覆われるようになり、 全国的に晴れて、強い日射により気温が高くなります。

 第1図は、記録的な高温となった2018年の夏の、大規模な大気の流れの概念図を示しています。
 2018年の夏は、上層の亜熱帯ジェット気流がユーラシア大陸から日本の東海上にかけて大きく蛇行した状態が持続しました。 日本付近では亜熱帯ジェット気流が北に大きく蛇行して、チベット高気圧の日本付近への張り出しが平年より強まりました。 また、フィリピン付近で積雲対流活動が平年より活発となり、太平洋高気圧の日本付近への張り出しが平年より強まりました。
 これらのことにより、日本付近では上層のチベット高気圧と太平洋高気圧がともに張り出して、暖かい空気を伴った背の高い高気圧に覆われた状態が続きました。 このため、高気圧内の下降気流による断熱昇温や、安定した晴天の持続による強い日射の影響を受けて、 東日本と西日本を中心に気温の高い状態が2018年7月中旬から8月上旬にかけて続きました。

 地球温暖化などにより地球全体で気温が高かったことも、全国的な高温に影響しています。

大規模な大気の流れ
第1図  2018年の夏に記録的な高温をもたらした大規模な大気の流れ

東海地方で顕著な高温となる要因

東海地方の局地天気図
第2図  2018年8月3日14時の気温(℃)と海面気圧(hPa)、風
矢印は、山地の空気が圧縮されながら平地に吹き下りる様子を示す。
34℃と38℃の等温線を、それぞれ青と赤の点線で示す。
地形データにはUSGSのGTOP030を利用した。

 日本付近が高気圧に覆われ、全国的に晴れて気温の高い日が続くなかで、東海地方で顕著な高温となることがあります。

 例えば、2018年8月3日は、名古屋地方気象台や岐阜県美濃で日最高気温40.3℃(当日の日本1位)を記録するなど、東海地方で特に気温が高くなった所が多くなりました。

 第2図は、2018年8月3日14時の東海地方を中心とした局地天気図を示しています。
 この日は、日中の加熱によって地形性の低気圧が長野県付近に形成されて、愛知県では西または北西の風が吹きやすくなりました。 この西よりの風は、伊吹山地や鈴鹿山脈(標高約1300~1400m)付近で暖められた空気を濃尾平野まで強制的に下降させたと考えられます。 標高の高い所ほど気圧は低いので、山地の空気が平地へ吹き下りてくる間に空気は圧縮されて温度が上がります。 下降気流によって温度の上がった空気が濃尾平野に流れ込んだこと(山越えによる乾いたフェーン現象)が、東海地方で顕著な高温となった原因の一つと考えられます。
 一方で、海風の吹いていた尾鷲などでは、相対的に気温が低くなっています。 愛知県で西よりの風が卓越したことで、冷涼な海風の影響を受けなかったことも、名古屋市などの内陸部で特に気温が高くなった原因の一つと考えられます。

 これらに加えて、朝の最低気温が高かったことや晴れて日照時間が多かったことが重なり、 地上付近の暖かい空気が更に加熱され、記録的な高温(名古屋地方気象台や三重県桑名では観測史上1位の日最高気温)となりました。

都市部ほど夜も暑い

 都市部の気温がその周辺の郊外部と比べて高くなる『ヒートアイランド現象』は、最高気温よりも最低気温に顕著に現れます。

 第3図は、都市気候モデルを用いて再現した名古屋市近辺における2015年8月上旬の5時と15時の平均気温・平均風の分布と、 都市化の影響による平均気温・平均風の変化(都市がある場合とない場合の差)の分布を示しています。 5時(最低気温の出やすい時刻)の平均気温の分布を見ると、名古屋市付近に28℃以上の閉じた高温域が広がり、都市化の影響による気温上昇もこの付近で大きくなっています。 一方で、15時(最高気温の出やすい時刻)の平均気温の分布では、名古屋市付近を中心に34℃以上の高温域が広がっていますが、 都市化の影響による気温上昇の規模は5時に比べ小さくなっています。

 日中の都市化の影響による気温上昇の規模が夜間に比べ小さいことは、 日中は混合層(注)の発達に伴って、都市部の熱が上空の高い所まで拡散されるためと考えられています。 一方で、夜間は混合層の発達が弱く、都市部の熱が地表付近の薄い層に集中することや、 都市部では郊外部に比べ放射冷却が弱く地表付近の気温が下がりにくいことにより、ヒートアイランド現象がより顕著に現れると考えられています。

 第4図は、2018年8月3日5時の気温分布を示しています。 この図から、名古屋市付近に28℃以上の高温域が広がっていたことが分かります。 夜間に気温が下がりにくく、気温の高い状態が続いていたことも、この日に名古屋市で日最高気温が特に高くなった原因の一つと考えられます。

 記録的な最高気温に注目が集まりがちですが、都市部では夜間もあまり気温が下がらず、30℃以上の時間が長く続くこともあるため、夜の熱中症対策も重要です。

(注)混合層とは、対流により空気がよく混ざり合った、地表面付近から高さ数百から千数百メートルの大気層のことです。

都市気候モデルによる解析結果
第3図  名古屋市近辺における2015年8月上旬の時別(上から5時、15時)の平均気温・平均風の分布(左列図)と 都市化の影響による平均気温・平均風の変化の分布(右列図)
都市気候モデルによる解析結果(ヒートアイランド監視報告 2015より抜粋)。 気温の単位は℃、風速の単位はm/s。
5時の気温の分布図
第4図  2018年8月3日5時の気温(℃)の分布

豆知識:熱中症を引き起こす要因

 気温が高いことは熱中症を引き起こす要因の一つですが、日射やアスファルトやコンクリートなどの人工構造物からの照り返しも体温を上昇させ、熱中症を引き起こす要因となり得ます。 また、湿度が高い場合には、発汗による体温調節機能が阻害され得るため、熱中症に対してより注意が必要です。  
 名古屋市内には、市の中心部に限らずとも、広い範囲で人工構造物が多くありますから、市の中心部でなくとも熱中症に注意する必要があります。

 熱中症について詳しく知りたい方はこちら >>  環境省・熱中症予防情報サイト(熱中症関連情報)

気温の観測方法

 気象台では、『露場(ろじょう)』とよばれる場所で気温や湿度、雨量などの観測を行っています(第5図)。
 気温や湿度の観測に対する日射などの影響を防ぐために、温度計と湿度計は断熱材を入れた二重の円筒の中に入れ、 この筒の中に常に風を通しながら観測を行っています(第6図)。 この筒のことを『通風筒』と呼び、 通風筒の下部には、地面で反射した日射が直接温度計などにあたることを防ぐために、遮へい板が取り付けられています。 このような機器を用いることで、大気そのものの温度を測っています。

 名古屋地方気象台は標高約50mの高台にありますが、高度による気温の変化は100m高くなるごとに0.5℃から1.0℃低くなる程度であり、名古屋市中心部(標高数m)との差は小さいと考えられます。

 日陰における体感温度が、おおむね気温に相当します。日射の強い場所や、人工構造物からの照り返しのある場所では、体感温度が気温より高くなることもあります。
 また、世界的な取り決めに基づき、気象台では地面から1.5mの高さに通風筒を設置し、この高さの気温を測定しています。 晴れた日のアスファルトなどの上では、日射によって強く暖められた地面の影響で、地面に近づくほど気温も高くなっています。 このため、気温の高い晴天時に屋外の散歩などをする場合、身長の低い幼児は大人よりも熱中症のリスクが高まります。

名古屋地方気象台の露場
通風筒
第5図  名古屋地方気象台の露場
第6図  通風筒の外観(左図)とその断面図(右図)

参考・引用文献

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