◆気象災害
「災害国日本」とも言われるように、日本は気象による災害が数多く発生しています。これは、日本が中緯度地方にあるため、北からの寒冷な空気と南からの暖湿な空気が接して前線を形成したり、周りの海から熱や水蒸気のエネルギーをもらって低気圧が発生・発達しやすいこと、さらには南洋などで発生した台風が発達しながら北上するコースにあたっていることなどに原因があります。
しかも、多くの都市は川筋にできた平野や埋立地などにあり、また、近年は山地や急傾斜地が開発され住宅などが建設されていることもあって、ひとたび風水害などが起こると大災害になってしまう場合があります。
文明の発達とともに気象災害の種類は多くなり、なかでも梅雨期などに発生する集中豪雨や台風に伴う風水害は毎年のように起こっています。したがって、私たちは災害を引き起こす気象を常に監視し、事前に防災対策を立てて被害を最小限に食い止める努力を続けていく必要があります。
◆気象災害の種類
◆奈良県の気象災害
1 大雨による災害
大雨害とは、大雨や強雨が原因となって起こる災害の総称として用い、水害ともいう。大雨害は、県内の気象災害全体の約半数を占める。災害の多くは浸水害、山・がけ崩れ害である。
発生時期は7月の梅雨期をピークに暖候期に集中し、寒候期にはほとんどない。
気象要因別に見ると台風によるものが最も被害が大きく、大型台風が県内を通過または接近すると強風害も重なり、県全域で人的災害を含め甚大な災害をもたらす。
2 長雨による災害
雨が多く湿度の高い日が何日も続くと、農作物は多湿と日照不足のためにその生育や作柄に直接・間接の被害を受ける。このような被害を長雨害、あるいは湿潤害ともいう。長雨だけによる災害は県内では極めて少なく、ほとんどの場合が大雨や低温による災害と重複する。
災害の多くは長雨と低温による農作物被害で、ついで土砂災害や浸水害である。
気象原因は停滞前線によるもので、梅雨前線や秋雨前線、菜種梅雨などである。
3 強風による災害
台風や低気圧及び寒冷前線などの接近や通過、季節風の吹き出し、竜巻、雷雨などを要因として起きる強風や突風、または、それらに地形効果が加わって起きる局地風などの、強い風によって発生する災害を強風害という。しかし、奈良県は内陸県で、周囲を山で囲まれており、その地形特性から強風は吹きにくく、災害は少ない。
奈良県における強風害は、台風によるものを除くと、寒冷前線通過時の突風、発達した日本海低気圧に吹き込む南西の強風、及び南岸低気圧の通過に伴う東よりの強風に起因する。
4 台風による災害
年間に発生する台風の平年値は約25個で、そのうち最も多いのは8月、次いで9月である。奈良県に災害をもたらす台風のほとんどは、九州南部から北東に進んでくるものと、四国または紀伊半島の南方海上から北または北北東に進んでくるものである。
台風が奈良県に接近しやすい時期は、7月下旬から10月中旬にかけてであり、特に8月下旬および9月の中旬から下旬にかけてが多い。
また、奈良市より150km内を通過した台風は9月下旬に多く、これは奈良県に大きな災害をもたらした台風が、9月下旬に圧倒的に多くなっていることと一致している。
5 雷とひょうによる災害
奈良県における雷の発生状況をみると、最も多く発生する時期は8月を中心とした盛夏期である。続いて、梅雨期、春期、秋期となっており、冬期にも発生する。雷害のほとんどは落雷によるものである。落雷は時として人命に関わる災害を起こすものであり、このほか、電力や通信施設などにしばしば被害を及ぼしている。特に、近年は高度情報通信機器の発達によって、これらへの被害が多くなっている。このように、落雷によって生じる直接的、間接的被害が落雷害である。
さらに、ひょうを伴って起こった場合は、野菜類、果樹類、茶などの農園芸作物や施設に大きな被害を起こしている。ひょうが降ったり積もったりすることにより生じる、直接的・間接的被害がひょう害である。
奈良県においては、盛夏期を中心として5月から9月にかけての時期に雷やひょうによる被害が集中している。
6 雪による災害
雪が降るのは、西高東低の冬型の気圧配置と南岸低気圧の接近時に分けられる。奈良県の冬型の気圧配置による降雪は、大和高原・宇陀山地及び県南西山岳地帯が中心である。これによる災害としては、大規模なものはないが、まれに電線などに降雪が付着し、雪の重みあるいは着雪が脱落するとき電線がはね上がる現象により、電線の切断・短絡や電柱・支柱などの傾斜・折損などを起こす着雪害や交通障害の報告がある。
南岸低気圧による降雪は湿った重い雪で、県全域におよび中でも多く降るのは、大和高原・宇陀山地から南西部の山岳地帯である。これによる災害は冬型の気圧配置のものより多く規模も大きい。被害としては、着雪害や交通障害のほか、家屋その他施設や樹木が雪圧によって損壊する雪圧害、これらに伴う農作物被害がある。
7 霜などによる災害
霜は、空気中に含まれる水蒸気が地面や地面付近の物体の表面などに付着して凍ってできたものである。霜は、晩秋から春先にかけて発生し、特に、よく晴れて風の弱い夜間は、放射冷却が加わり、一段と冷え込み発生しやすくなる。
凍霜害は、農園芸作物の葉や新芽などの細胞を凍死、または生理機能を低下させるなどして被害をあたえるものであり、4月以降の晩霜によるものがほとんどである。奈良で4月に霜が降りる日数は約4日、多い年で8日ある。
暖かくなる季節にむかって最後に降りた霜を終霜といい、奈良の終霜の平年日は4月10日であるが、最も遅い記録は5月7日(1969年)である。
奈良県で大きな凍霜害をうける農園芸作物は茶と柿があげられる。茶は、大和高原を中心に、特産物として多く栽培されており、また、柿は西吉野地域の広い範囲で栽培されている。これらの地域は奈良盆地より標高が高く、気温も低いため晩霜が発生しやすく被害も大きくなる。
農作物の生育状況や防霜対策により、霜が降りても必ず凍霜害が発生するわけではないが、5月になってからの晩霜は大きな凍霜害となりやすい。
8 霧による災害
奈良県は、地形特性から霧の発生しやすい地である。東部山間部では、山を昇る気流の冷却によって、水蒸気が凝結して形成される滑昇霧(山霧)、奈良盆地では、赤外放射のためにできる放射霧や前線通過時に発生する前線霧などがある。そして、紀ノ川筋や大和川筋では、冷たい空気が水温の高い水の上を流れてできる蒸発霧(川霧)などがあるが、複数の原因が重なり合ってできることもある。奈良盆地での発生時期は秋から春先にかけてが主で、特に10月、11月に多く発生しているが、山間部では暖候期に発生する山霧も多い。
発生時刻は朝4時から6時、消滅時刻は7時から8時が最も多く、日の出から数時間で消滅することが多い。継続時間は4時間から5時間が多く、短いものでは10分程度、長いものでは10時間ぐらい続くこともある。
1995年から2004年までの10年間における奈良の霧の発生状況を見ると、年平均で約6回発生している。また、1960年から1964年の5年間の年平均は約38回であり、これを見る限り近年著しく減少しており、これは都市化の進行が一因と考えられる。
霧の発生は、交通障害を引き起こす原因となる。