福岡管区気象台|『令和3年度 気候講演会』へのたくさんのご参加ありがとうございました

福岡管区気象台では、皆様に気候変動の現状や将来予測、それによる影響やすでに取り組まれている適応策についての知識を深め、私たちができる対策について考える機会としていただくために、「気候講演会 in 福岡」を開催しています。

気候講演会 in 福岡 ~気候変動の最新の知見と福岡県における取組~

講演会案内チラシ(PDF) *画像をクリックするとPDFで開きます。
日時令和3年12月18日(土)
13時30分~16時00分
(13時00分から接続可能)
開催方法ウェブ会議ソフトZoomのウェビナー機能を用いたオンライン開催
後援福岡県、福岡市、福岡県地球温暖化防止活動推進センター
日本気象学会九州支部、地球ウォッチャーズ -気象友の会-

講演内容

 <司会>松井 渉 氏(日本気象協会 気象予報士・NHK福岡気象キャスター)
講演タイトル および 講演者講演要旨
福岡の気候はどう変わる?―気候変動の現状と見通し

池田 友紀子 氏
(気象庁 大気海洋部 気候情報課 気候情報調整官)
講演資料(PDF)
2021年8月に公表されたIPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書では、 地球温暖化が人間の影響で起きていることを、初めて「疑う余地がない」と評価しました。また、大雨や極端な高温といった現象は、地球温暖化の進行に伴いますます増加し、強くなるだろうと指摘しています。気象庁・文部科学省が昨年12月に発行した「日本の気候変動2020」の報告書など、最新の知見から、世界、日本、そして福岡の気候変動の現状と将来の予測についてご紹介します。
豪雨と気候変動の関係を探る
「イベント・アトリビューション」


今田 由紀子 氏
(気象研究所 気候・環境研究部 第一研究室 主任研究官)
講演資料(PDF)
九州地方では近年、豪雨による被害が後を絶ちません。目の前で起こっている豪雨は地球温暖化のせいなのか?このような疑問に答えるために編み出されたイベント・アトリビューションと呼ばれる手法が近年注目を集め、IPCC第6次評価報告書の中でも引用されています。本講演では、ノーベル物理学賞の真鍋先生が作られた気候モデルが進化を遂げ、最新の異常気象研究に生かされている例を紹介します。
福岡県における気候変動適応の取組

高尾 佳子 氏
(福岡県気候変動適応センター)
講演資料(PDF)
気候変動適応法が施行され、福岡県内の気候変動適応に関する情報拠点として、福岡県気候変動適応センターが2019年8月に福岡県保健環境研究所内に設置されました。県内でも気候変動の影響が様々な場面で感じられるようになり、今後も気温上昇が予測されていることから、影響は拡大していくとみられています。そこで、すでに発生している影響や今後予想される影響、その対応(適応)について福岡県の取組みを紹介します。

質問への回答

講演会当日に寄せられた質問への回答を掲載しています。
〇講演1
質問回答
温暖化が進むと、少雨へはどのような影響がありますか?少雨も増加すると予測されています。福岡でははっきりしませんが、国内では雨の降らない日数が増えている地点が増加しています。今後雨の降り方が極端になることが予測されていることから、大雨と少雨の両方が増えると考えられます。
〇講演2
質問回答
なぜ南西からの水蒸気移流に伴う降雨に対する温暖化の影響が検出されやすいのですか?また、これは温暖化した場合のイベント・アトリビューションと温暖化しなかった場合のイベント・アトリビューションを比べてみて、前線が増えていると分かったのですか?前線自体の変化は現時点では不確実性が高く、結論が出ておりません。ここで見えているのは、気温上昇によって大気中の水蒸気が増加することによる効果です。梅雨前線に関しては、毎年同じ時期に発生し、水蒸気が流れ込みます。大気中の水蒸気が増加すると、梅雨前線に流れ込む水蒸気も増加しますので、大雨の頻度を底上げすることになります。
北陸地方から参加させていただいています。 豪雨については、温暖化の影響が言われるようになりましが、 近年の極端な豪雪・ドカ雪(2021年1月上旬の北陸地方の大雪など)については、イベント・アトリビューションによる温暖化の影響は分析されていらしゃいますか?2021年1月の北陸地方の大雪については、イベント・アトリビューションの手法で現在分析中です。過去の大雪の分析では、平野部の積雪量は気温上昇に伴い減少するものの、山間部のように温暖化で気温が上昇しても0度を下回っているような地域では、大気中の水蒸気の増加により積雪が増加することが示された例もあります。
イベント・アトリビューション手法では、過去の気象がよく再現されるモデルを利用する必要があると思いますが、具体的には、再現された過去気象の何を評価されて、よく合うモデルかどうかの判断をされているのでしょうか?例えば猛暑を対象としたイベント・アトリビューションでは、対象地域の気温の確率密度分布が正しく再現されている必要がありますので、過去数十年の観測に類するデータから描かれた確率密度分布の平均値とばらつきの幅(分散)が整合しているかどうかを確認します。誤差が大きい場合はバイアス補正を適用することもあります。
先日のアメリカの竜巻についてもイベント・アトリビューションは可能でしょうか? 竜巻自体はスケールが小さすぎて無理でもそれをもたらす背景場の評価などは行えないでしょうか?おっしゃる通り、竜巻は空間スケールが小さすぎるので、気候モデルを用いて竜巻そのものに対してイベント・アトリビューションを行うことは難しいです。竜巻が発生しやすい環境場の研究は盛んに行われていますので、理解が進めば、将来的には竜巻の環境場に対するイベント・アトリビューションが可能になるかもしれません。
〇講演3
質問回答
温暖化が農業に及ぼす好い影響なども調べたりされていますか?気候変動による影響調査の中で、農業分野では収量の増加や食味向上といった予測も得られています。例えば、地方独立行政法人北海道立総合研究機構では、2030年代の気象予測データを用いて農作物の収量や品質に関する予測が行われおり、水稲については、もみが熟する期間の気温上昇により収量はやや増加し、出穂後の気温が高くなることで食味が向上するといった予測結果が報告されています。
[文献] 地方独立行政法人北海道立総合研究機構,温暖化する地球北海道の農林業は何ができるのか!?,https://www.hro.or.jp/pdf/ondanka_panf.pdf
適応に対する県民や市町村の反応や意見などで印象に残っていることがあれば教えてください福岡県内にお住まいの方から、「庭のアンズの花の開花日はここ数年で今年度が一番早かった」や「モクレンの調査結果も時期がきたらお知らせします」といった情報提供を福岡県気候変動適応センターにいただいたことがあります。当センターを知ってくださっていること、また、応援してくださっていることが嬉しく記憶に残っています。 また、県内市町村の担当の方とは、地球温暖化対策や気候変動適応の研修会等でお話しする機会がありますが、その際、それぞれの地域で、地域の特徴に応じた適応策を検討しているというお話を聞くことが増え、県内全体として取組みが進みつつあることを感じています。

リンク

気象庁 IPCC第6次評価報告書(AR6)のページ
日本の気候変動2020 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—


問い合わせ先

福岡管区気象台気象防災部地球環境・海洋課
電話 092-725-3613 (平日9時から17時まで受付)