線状降水帯の予測精度向上等に向け、観測を強化しました

鹿児島地方気象台長 瀧下


 近年、全国各地で毎年のように大雨による甚大な被害が発生しています。九州地方でも令和2年7月豪雨(九州で記録的な大雨。球磨川など大河川で氾濫が相次ぐ。)を始め、過去には平成24年7月九州北部豪雨(熊本県熊本地方・阿蘇地方や大分県西部、福岡県筑後地方など九州北部で記録的な大雨)、平成29年7月九州北部豪雨(福岡県朝倉市や大分県日田市など九州北部で記録的な大雨)など、多くの人命が奪われる甚大な被害が発生しています。これまでの研究で、これらの甚大な大雨災害は、線状降水帯の発生によってもたらされたことが分かっています。

 線状降水帯とは、湿った空気の流入が持続することで、次々と発生した積乱雲により線状の降水域が数時間にわたってほぼ同じ場所に停滞することで大雨をもたらし、甚大な災害につながる現象です。鹿児島県では令和3年7月10日明け方に線状降水帯が発生し、鹿児島地方気象台は「顕著な大雨に関する鹿児島県気象情報」を発表しました。その約2時間後には、出水・伊佐、川薩・姶良の5市町村に大雨特別警報を発表し、最大級の警戒を呼びかけています。7月9日から10日にかけての総降水量が鹿児島県さつま町や伊佐市で500ミリを超える記録的な大雨となりました。

鹿児島県に線状降水帯発生時の気象状況(令和3年7月10日)

図1.鹿児島県に線状降水帯発生時の気象状況(令和3年7月10日)


 線状降水帯の予測精度を向上させるためには、海上から陸域への水蒸気の流入を正確に捉える必要があります。気象庁では令和3年度出水期より、気象庁観測船(2隻)と海上保安庁測量船(4隻)に洋上の水蒸気を捉えるための全球測位衛星システム(GNSS)観測装置を設置して観測を開始しました。

 鹿児島県内では、気象官署等の7箇所に加えて令和4年度までに20箇所のアメダスで湿度の観測が可能となり、これまで以上に気象状況を時間的・地域的に細かく監視することができるようになりました。これらのデータは気象庁HPでリアルタイムに見ることができます(図2左)。

 マイクロ波放射計は、上空の風向・風速を測定するウィンドプロファイラ観測点(3箇所:市来、屋久島、名瀬)に隣接して設置し、上空の水蒸気量の鉛直分布についても測定できるようになりました(図2中)。

 気象レーダーについては、令和4年度に種子島を二重偏波気象レーダーに更新しています(図2右)。令和5年度末には、名瀬レーダーも更新する予定です。
観測の強化(鹿児島県内)

図2.観測の強化(鹿児島県内)


 高層気象観測は、これまで1日2回(09時・21時)気球を手動で放球して観測していましたが、自動放球装置(ABL:Automatic Balloon Launcher)を設置し、鹿児島は令和5年2月末から運用を開始しました。名瀬(奄美大島)に設置しているABLとともに、大雨や線状降水帯の発生が予測される場合、台風が接近する場合など、臨時に観測が必要になった場合でも適時に観測できるようになりました(図3)。
ABLからの放球の様子(鹿児島地方気象台)

図3.ABLからの放球の様子(鹿児島地方気象台)


放球の様子

 気象庁では線状降水帯予測精度向上を喫緊の課題と位置づけ、産学官連携で世界最高レベルの技術を活用し、船舶 GNSS による洋上の水蒸気観測等の強化や、大学等の研究機関と連携した予報モデルの開発を進めています。これらの成果を活かして、情報の改善に順次つなげ、防災活動の支援強化に取り組んで行きます。

 気象庁における線状降水帯予測精度向上に向けた取組の概要をまとめました。
 詳細はこちら→「線状降水帯の予測精度向上に向けた取組」をぜひご覧ください。

(2023年3月23日掲載)