高層気象台彙報 第75号

収録内容

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高層気象台彙報 第75号 2018年3月
題  目 著  者
まえがき 山田 眞吾
口絵 上野 圭介
空気力学的粗度とゼロ面変位高度の推定値を用いた館野の風況調査 [要旨] 甲斐 智博
風車型風向風速計に鳥が止まることによる観測への影響について [要旨] 粕川 貴裕・阿保 敏広
iMS-100型とRS-11G型GPSゾンデの比較観測による特性評価 [要旨] 古林 絵里子・星野 俊介
高層気象台における地上オゾン濃度観測(1988~2016年) [要旨] 阿保 敏広・駒崎 由紀夫・高野 松美・茂林 良道
直達日射計を用いた全天日射計の校正方法の比較(遮蔽法とコリメーションチューブ法) [要旨] 居島 修・島村 哲也・押木 徳明・能登 美之
分光放射計用校正装置の開発及び分光放射計の校正精度 [要旨] 居島 修・高野 松美・山崎 明宏・石田 春磨・工藤 玲

要旨一覧

題目
空気力学的粗度とゼロ面変位高度の推定値を用いた館野の風況調査
著者
甲斐 智博
要旨

高層気象台では,気球による高層気象観測として,定常的に実施しているGPSゾンデによる高層気象観測,オゾンゾンデ観測に加え,GPSゾンデの相互比較観測など種々の調査を目的とした高層気象観測を実施している.これらの観測のより安全で効率的な実施のために,数値予報の資料に加えて,付近の地物の細かな構造などを考慮した放球地点(館野)の風況を把握しておくことが重要である.

本稿では館野の風況調査として,高層気象台で定常的に観測が実施されている測風ライダーと,JMA-10型地上気象観測装置の風向風速計の観測データを利用し,風向を4方向にわけそれぞれの方向の空気力学的粗度z0とゼロ面変位高度dを求めた.更にこの結果を利用して境界層理論から推定される突風率を調査した.この結果,おおむね北側で突風率が大きく南側で小さい傾向があった.

題目
風車型風向風速計に鳥が止まることによる観測への影響について
著者
粕川 貴裕・阿保 敏広
要旨

風車型風向風速計は鳥が止まることにより観測値に影響があることは知られているが,その影響については定性的な議論が多い.そこで本調査は,同一の測風塔に設置されている高層気象台と気象測器検定試験センターの2つの風向風速計の観測データを比較することによって,風向風速計に鳥が止まることの影響を定量的に評価できないか調査した.高層気象台の観測データ単独からでは大きな外れ値としてデータ上に現れることは無く,鳥が止まったことによる影響を判別することはできないため,品質管理によるデータ除外は難しいことが判った.しかし事例を集め両者を統計的に比較することによって,風向風速計に鳥が止まることにより,風速においては前1分間最大瞬間風速・前10分間平均風速ともに平均で0.1~0.2m/s程度低く観測されること,風向においては,風向がどちらかにずれることによる風向の分布に違いが生じるが,平均値においては風向差として表現できないことが分かった.

題目
iMS-100型とRS-11G型GPSゾンデの比較観測による特性評価
著者
古林 絵里子・星野 俊介
要旨

At the Aerological Observatory (Tateno station) of Japan Meteorological Agency in Tsukuba, Ibaraki, Meisei model RS-11G GPS sondes were replaced by Meisei model iMS-100 GPS sondes in September 2017. We carried out observations to compare these two types of radiosondes during four seasons and identified differences in performance. The results of the comparison show that the temperature recorded by the iMS-100 was 0.2 K higher than that recorded by the RS-11G above the 200-hPa layer during daytime observations. The pressure recorded by the iMS-100 was larger than that recorded by the RS-11G and the difference was smaller than 0.5 hPa between the 1000-hPa and the 200-hPa layers. The relative humidity recorded by the iMS-100 was higher than that recorded by the RS-11G above the 300-hPa layer during both daytime and nighttime observations. These differences between the two radiosondes would have a negligible impact on daily weather forecasts, but they should be taken into consideration when observation data are used for climate monitoring.

題目
高層気象台における地上オゾン濃度観測(1988~2016年)
著者
阿保 敏広・駒崎 由紀夫・高野 松美・茂林 良道
要旨

高層気象台における地上オゾン濃度観測は2016年12月に観測を終了した.1988年8月以降は,点検較正期間を除き,ほぼ欠測のないデータが取られており,世界気象機関(WMO)全球大気監視(GAW)プログラムの較正基準に合致するよう補正を施したデータ(上野・馬場:2006)が蓄積されている.本報告では,高層気象台における地上オゾン濃度観測の歴史を振り返るとともに,1988年から2016年までの約26年間の観測データを統計的に解析した結果を示す.即ち,つくばにおける地上オゾン濃度は,1997年頃までの減少傾向から,2003年頃以降は上昇傾向に転じるという経年変化を示すこと,春(4-5月)に極大,初冬(11-12月)に極小となるという季節変化を示すこと,各季節とも昼過ぎに極大,明け方に極小となるという日変化を示すことがわかった.更に,オゾンゾンデの地上観測値と比較した結果,ECC型への変更以降は,オゾンゾンデの地上観測値が地上オゾン濃度計の観測値と良く整合していることがわかった.

題目
直達日射計を用いた全天日射計の校正方法の比較(遮蔽法とコリメーションチューブ法)
著者
居島 修・島村 哲也・押木 徳明・能登 美之
要旨

一般的に直達日射計を用いた二次標準全天日射計の校正は,簡便な器具を使用する遮蔽法を用いることが多いが,気象庁では,短期間で校正が行えるコリメーションチューブ法を採用している.これまで,遮蔽法とコリメーションチューブ法を系統的かつ詳細に比較した資料がほとんどないため,両者の校正方法について,手順や測定値の特徴及びコリメーションチューブの改良した点を取りまとめた.その結果は以下のとおりである.

1) 遮蔽法及びコリメーションチューブ法の特徴
遮蔽法では,直達日射照度が変動している場合,または,天頂などに雲があり,散乱日射照度が変動している場合には,求める器械定数がばらつくため,校正の精度が低下する.一方,コリメーションチューブ法では,全天日射計を直達日射計と同じ構造にするため,直達日射照度が変動しても比較すべき値が同じ傾向となることから,求める器械定数がばらつくことはなく,良好な校正データを連続で得ることができ,校正日数を短くすることができる.

2) コリメーションチューブの改良
同じ仕様の4本のコリメーションチューブについて比較観測を実施した結果,器械定数にわずかながら差があった.このうち差が大きい1本のコリメーションチューブについては,内部の迷光を確認した.迷光を低減する改良を行った結果,器械定数を改良前に比べて0.9%小さくすることができた.

3) 遮蔽法とコリメーションチューブ法で求めた器械定数の比較
遮蔽法とコリメーションチューブ内部の迷光を低減する改良前後でのコリメーションチューブ法で求めた器械定数を比較した.その結果,遮蔽法の器械定数は,改良前の器械定数と比べて-0.9%,改良後の器械定数と比べて-0.1%となり,改良によって両者の器械定数はほぼ同じ値となった.

コリメーションチューブ法は,遮蔽法に比べて取得できるデータ数が多く,また,直達日射照度が変動している場合でも,高い精度で全天日射計を校正できる方法であることを確認した.

題目
分光放射計用校正装置の開発及び分光放射計の校正精度
著者
居島 修・高野 松美・山崎 明宏・石田 春磨・工藤 玲
要旨

従来のブリューワー分光光度計用校正装置を使用した分光放射計の校正では,測器の設置や距離の測定に個人差が生じ,また,校正結果にも迷光が影響している可能性があったため,分光放射計専用の校正装置を新たに開発することとなった.新たに開発した校正装置は,測器の設置時において測器受光面と光源との距離の変動に伴うNISTランプの波長別放射照度の不確かさを最小限に抑える構造とし,迷光の影響を可能な限り低減した.また,新型校正装置及びブリューワー分光光度計用校正装置の分光放射計の校正精度について,①基準となる波長別放射照度に関連する不確かさ,及び,②分光放射計測定値への迷光の影響を調査した.その結果は以下のとおりである.

①基準となる波長別放射照度に関連する不確かさ

1) ブリューワー分光光度計用校正装置
校正の基準となる波長別放射照度の相対標準不確かさは,①測定距離の不確かさ:0.5%,②電源装置の安定性による不確かさ:0.6%(推定),③NIST ランプの校正における不確かさ(350nm):1.1%となり,合成した相対拡張不確かさ(k=2)は2.8%(350nm)であった.

2) 新型校正装置の不確かさ
校正の基準となる波長別放射照度の相対標準不確かさは,①測定距離の不確かさ:0.2%,②電源装置の安定性による不確かさ:0.7%,③NISTランプの校正における不確かさ(350nm):1.1%となり,合成した相対拡張不確かさ(k=2)は2.6%(350nm)であった

②分光放射計測定値への迷光の影響

ブリューワー分光光度計用校正装置においてランプカバーを取り付けた校正では,カバー内部の反射等の迷光によって測定値が全波長平均で3.1%増加していた.また,ブリューワー分光光度計用校正装置と新型校正装置の測器常数の比較において,新型校正装置では迷光が低減されたことを確認した.

これらの結果から,新型校正装置では,ブリューワー分光光度計用校正装置に比べ,基準となる波長別放射照度に関連する不確かさのうち,測定距離の不確かさを3分の1に改善することができた.また,新型校正装置では,分光放射計測定値への迷光の影響が低減された.両校正装置による分光日射計の校正において,波長別放射照度の相対標準不確かさはNISTランプの値付けに起因する不確かさや電源の安定性による不確かさによる影響が大きく,校正精度の向上のためにはランプの校正精度の向上及び電源装置の不確かさの低減等が課題である.