高層気象台彙報 第78号

収録内容

題目をクリックすると、pdfファイルで全文を読むことができます。

高層気象台彙報 第78号 2023年3月
題  目 著  者
まえがき 郷田 治稔
口絵 岩渕 真海
館野とGEONET観測点「つくば2A」における可降水量の比較 [要旨] 野島 孝之・古林 絵里子
RS41-SG型とiMS-100型GPSゾンデの比較観測による特性評価 [要旨] 古林 絵里子
昭和基地における月光を用いたエーロゾルの光学的厚さの観測 [要旨] 居島 修・芦田 裕子・赤松 澪
分光放射計を用いて観測した太陽光波長別放射照度の活用 ― 数値予報モデル等の放射照度の検証 ― [要旨] 居島 修
ブリューワー分光光度計用の旧型及び新型外部標準ランプ点検装置(UV Stability Kit)の特性調査 [要旨] 津田 元気・上里 至

要旨一覧

題目
館野とGEONET観測点「つくば2A」における可降水量の比較
著者
野島 孝之・古林 絵里子
要旨

高層気象台では,2009年11月に全地球測位システム(Global Positioning System; GPS)を用いたGPS気柱水蒸気量観測設備を整備し,観測点「館野(TATN)」としてGPS観測を行っていたが,現在は館野の近傍に位置する国土地理院のGNSS(Global Navigation Satellite System)連続観測システム(GNSS Earth Observation Network System; GEONET)観測点「つくば2A(TSK2)」のデータを利用している.

本調査では,両観測点におけるGPS観測データから算出される可降水量データ(以下,GPS可降水量)の比較を行い,両観測点間のデータ特性について調査した.その結果,館野のGPS可降水量は,つくば2AのGPS可降水量に比べて月平均値で0.5mm程度小さい傾向があることが分かった.この差は,可降水量が多い時期においては2%程度に該当し,両者に大きな差はないといえる.また,館野と同一地点である高層気象台ではGPSゾンデによる高層気象観測を行っており,そのデータから算出される可降水量データ(以下,GPSゾンデ可降水量)とGPS可降水量を比較したところ,館野とつくば2AのGPS可降水量同士の差は,GPSゾンデ可降水量との差よりもさらに十分小さいことが分かった.加えて,GPSゾンデ可降水量を利用する際には,GPSゾンデの種類に依存した観測特性の違いを考慮する必要があることも分かった.

題目
RS41-SG型とiMS-100型GPSゾンデの比較観測による特性評価
著者
古林 絵里子
要旨

高層気象台では2020年6月から定常観測に使用するラジオゾンデを明星電気社製iMS-100型からVaisala社製RS41-SG型に変更した.新旧GPSゾンデの特性の違いを評価するため,2020年7月から2022年4月にかけて比較観測を実施した.比較データを解析した結果,気温では日中の観測で-0.2~+0.1K,夜間の観測で-0.1~+0.3Kの差が見られ,相対湿度ではおおむね±5%RHの差が見られた.比較解析結果における気温や風向・風速の観測値の差は2017年に実施されたRS-11G型GPSゾンデとiMS-100型GPSゾンデの比較結果と同程度の大きさであった.また,今回の比較観測における定常観測データとGRUANデータプロダクトの比較では,GRUANデータプロダクトで導入されている処理方法を適用することにより,相対湿度やジオポテンシャル高度で観測精度の向上を図れることがわかった.

題目
昭和基地における月光を用いたエーロゾルの光学的厚さの観測
著者
居島 修・芦田 裕子・赤松 澪
要旨

南極昭和基地では,月光でもエーロゾルの光学的厚さの観測が可能なスカイラジオメーターを導入し,2021年1月から運用を開始した

スカイラジオメーターは,ヒーターやペルチェ素子を用いて検出器の温度調節を行っているが,この温度調節機能が不十分なため,温度特性検査を実施し観測したデータを補正している.今回,スカイラジオメーター内部に温度センサーを新たに追加したことから,温度特性を詳細に把握するとともに,温度特性の補正に適した測器内部温度を調査し,温度特性の補正手法を確立した.

また,月光を用いたエーロゾルの光学的厚さの計算において,月面における太陽光の反射率を利用するが,この反射率は過小に計算されており,エーロゾルの光学的厚さについても過小に計算された.このため,反射率を簡易的な手法で補正し,月光のエーロゾルの光学的厚さを計算した結果,太陽光の計算結果とほぼ一致した.

題目
分光放射計を用いて観測した太陽光波長別放射照度の活用 ― 数値予報モデル等の放射照度の検証 ―
著者
居島 修
要旨

高層気象台では,これまで分光放射計の特性を調査するとともに,分光放射計用校正装置を開発し校正方法を確立してきた.現在,これらの成果を基に太陽光波長別放射照度の直達成分及び散乱成分について連続観測を実施している.今回,この観測データを用いて2種類の数値予報モデル(メソモデル,全球モデル)の放射照度及び衛星プロダクトである日射量推定値について,可視域・近赤外域などを区別した検証を実施した.また,最大の誤差要因となりうるエーロゾルの光学的厚さについて,サンフォトメータによる観測結果と,数値予報モデル等で用いられた値を比較するとともに,エーロゾルの放射計算への効果についても調査した.検証等の結果,全球モデルの放射照度の散乱成分は近赤外域では観測値より大きい一方で紫外域・可視域では観測値より小さいなど,波長及び直達・散乱成分の違いにより過大・過小の傾向が異なることや,それらの要因として計算に用いたエーロゾルの光学的厚さが関連することが分かった.

題目
ブリューワー分光光度計用の旧型及び新型外部標準ランプ点検装置(UV Stability Kit)の特性調査
著者
津田 元気・上里 至
要旨

ブリューワー分光光度計による波長別紫外域日射観測では,外部標準ランプ点検装置を用いて測器の感度変化を監視している.今回,従来の点検装置の老朽化及び製造終了に伴い,Kipp&Zonen社が後継機として開発した新型装置を購入した.現業利用における新型装置の精度に問題がないことを確認するため,①新型装置の高温及び低温環境での動作試験,②新旧両装置における温度特性(環境温度の変化に伴うランプの放射照度の変化)に関する調査,③新旧両装置の長期間に渡る屋外点検結果の比較,を実施した.各試験等の結果は以下のとおりである.

①新型装置について,-30℃~40℃の環境下で動作試験を行った結果,ランプへの供給電流値及び電源部の基板温度に問題は見られなかった.

②新旧両装置について,-25℃~40℃の環境下でランプの照射試験を行った結果,両装置共にランプの放射照度はほぼ変化がなかった(概ね1%以内).

③新旧両装置について,屋外設置のブリューワー分光光度計の定期点検に約1年間利用し比較した.点検結果から得られた測器感度の変化は,両装置共にほぼ同じであった(両者の差は概ね1%以内).