南岸低気圧による東京都での課題と、大雪発生の仕組み

目次


南岸低気圧による大雪発生における、東京都での課題

 本州の南岸を通過する低気圧のことを南岸低気圧と呼んでいます。
 冬に南岸低気圧が通過するとき、東京都では、地上気温が0℃近くに下がり、雪の降りやすい気象状況となって、大雪になることもあります。

 地上気温が0℃付近で降水となる気象状況では、1~2℃の気温の違いが雨と雪の違いに、数ミリの降水量の差が数センチの降雪量の差につながるため、南岸低気圧による雪は、現在の技術では、正確な予想が非常に難しい気象現象の一つです。

 一方で、約1400万人の人口を抱える世界有数の大都市である東京都、とくに東京地方での雪は、数センチ程度の積雪が大規模な交通障害につながるなど、多くの人々の暮らしに大きな影響を与えます。

 このため予報官は、雪とはならない場合・雨に雪が混じる場合・交通機関や農業に影響が出る規模の雪が降る場合など、予想資料からあり得る状況を想定したシナリオを複数用意し、最新の状況に合わせてシナリオを遂次切り替え、実際に雪が降る前に予報や注意報・警報を発表できるよう準備を整えます。
 また、複数のシナリオをもとに、予想に幅があることを踏まえた解説も行っています。

 ただ、現状では、悪めに想定したシナリオよりもさらに悪い状況になる、降雪に至る条件が複雑で的確な現状把握が難しく、実際に雪が降り始めないとシナリオ切替の判断ができない、といったことから、予報が外れたり情報発表が遅れたりするなどの課題を抱えています。

(※「シナリオ」について→ 量的予報技術資料 第19号 2014年

南岸低気圧による大雪発生の仕組み

 関東平野での南岸低気圧による大雪発生の仕組みについて概略を記載します。
 南岸低気圧による大雪の予報の難しさについては、気象庁ホームページ「予報が難しい現象について」にも記載しています。

 より詳しく知りたい方へ:
 「量的予報技術資料第19巻(平成25年度)第2章 実例に基づいた予報作業の例」の28ページ~48ページに、関東地方南部の南岸低気圧による大雪の知見および予測についての詳細をまとめています。

南岸低気圧による降雪の概念図

 関東平野では、流入する3つの流れ
  •  ①温暖前線を滑昇する流れ
  •  ②前線前面の東よりの流れ
  •  ③北東からの流れ
 と④冷気層が重なった構造をしています。
 これらの層すべてが0℃程度まで低くないと雪とはなりません。
 ②③の流れは海面水温の影響を受けて地上付近は比較的高温となるため、平地で雪になるには、④の冷気層の存在が重要となります。


何層もの空気層それぞれの気温、地上付近での湿度、降水量、、微妙で複雑な条件が全部影響するのです。
 大気は上空から地上にかけて、ある割合で気温が上昇しますが、関東平野では地上付近に冷気層が形成されると、雪が解けないまま地上に達しやすくなります。
 冷気層は、北東から流れ込む冷たい気流や関東平野の降水により形成されるので、予想より北東から流れ込む気流の温度が低かったり、降水量が多かったりすると冷気層内の気温が低くなり、雨と予想していたのが雪となったり、雪の量が多くなったりします。

雨か雪かを判別する

 雨となるか雪となるかは、上空から地上にかけての気温の状態に左右されます。
 下の図は、地上から上空にかけての気温の状態と、地上での降水の種別(雪、みぞれ、雨)の関係を模式図として示したものです。

上空の構造のほか、地上の湿度や降り始めの状況によっても降雪の状況は変わります。
 東京平地での積雪の目安は、950hPaで0~-1℃以下、975hPaで0℃以下、地上で1.5℃以下(令和元年度関東甲信地方予報技術検討会による)です。
 ただし、雨となるか雪となるかは厳密には湿度の影響も受け、湿度が低いと気温が高くても雪となることがあります。

降雪量を見積もる

 雪は固形物であるため、降水量としては同じでも、地上気温により降雪量が多くなったり少なくなったりします。
 このため、降雪量の見積もりには、雪水比という考え方を用います。

 雪水比とは、降雪量を降水量で割ったもののことです。(例 降水量が2ミリに対して降雪量が1センチの場合、雪水比は0.5)
 同じ降水量でも気温により雪水比は違い、降雪量は大きく異なります。
 下の図は気象庁(2014)による地上気温と雪水比の調査結果です。カッコ内の数字はデータ数で、南岸低気圧による雪は気温が0~1℃で降ることが多いことを示しています。


東京では、5ミリの降水量があった場合、
気温が1℃以上だと5×約0.1=約0.5センチの降雪に、気温が0℃だと5×約0.8=約4センチの降雪になる計算です。

事例解析

・令和4年1月の大雪事例の数値予報の結果(令和4年度数値予報解説資料集 第3章)
 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwpkaisetu/R4/3_1.pdf
 2022(令和4)年1月6日、東京で最深積雪10cmを観測した事例について、数値予報結果をまとめた資料を気象庁ホームページに掲載しています。

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