2014年8月の大気の流れの特徴―詳細解説―

 ここでは、8月上旬後半以降に西日本に南から湿った空気が流入しやすくなった要因について述べます。 図13-5のように、2014年8月は、インド洋及び東部太平洋熱帯域で対流活動が活発であるのに対し、南シナ海からフィリピン東海上にかけて対流活動不活発となっています。 南シナ海からフィリピン付近の対流活動が不活発となった要因の一つは、図13-6にみられるように、対流活動が活発となったインド洋と東部太平洋熱帯域で、対流圏上層まで持ち上がった空気が、南シナ海からフィリピン付近に下降して、上昇気流が抑えられたからです。


図13-5
図13-5 2014年8月の対流活動分布の平年偏差
2014年8月におけるOLR(Outgoing Long Radiation;外向き長波放射量)の平年偏差を対流活動の活発・不活発の推定に用いている(青色領域が対流活動活発域)。
図13-6
図13-6 2014年8月の東西風と鉛直風の平年偏差(南緯10度~北緯10度の平均)
横軸は経度、縦軸は気圧(hPa)を表す。小さい黒矢印は、東西風・鉛直風による平年偏差ベクトル。陰影は東西風の平年偏差で、暖色は西風偏差、寒色は東風偏差。

 フィリピン付近の対流活動が、8月上旬前半から一転して不活発になったもう一つの要因としては、熱帯大気の対流活動が強弱を繰り返す季節内振動による影響が考えられます。夏の熱帯季節内振動は、対流活動活発域(不活発域)が赤道域を30~60日周期で東進するとともに、一部は、インド洋でインド付近に向かって、太平洋西部でフィリピン付 近に向かって、それぞれ北進します。 2014年の7~8月は、図13-7及び図13-8に示されるとおり、対流活動不活発域の赤道域での東進や、インドからフィリピン付近に向かっての北進がみられました。


図13-7
図13-7 2014年夏にみられた熱帯の季節内振動(赤道域における東進)
赤道域(南緯5度~北緯5度)で平均した5日移動平均200hPa速度ポテンシャルの平年偏差の、 2014年6月1日~8月29日までの経過を表す。 200hPa速度ポテンシャルとは対流圏上層(200hPa)における大気の発散・収束を表す指標であり、 大規模な発散域(寒色域)は上昇流が卓越した対流活動活発域におおむね対応。
2014年7月から8月にかけての期間は図13-7の通り、 大規模な対流活動の活発域と不活発域が赤道季節内振動により太平洋西部を交互に東進し、 8月には、太平洋西部が対流活動不活発な領域となっていることがわかる。
※異常気象分析検討会(臨時会)2014年9月3日報道発表資料より抜粋

図13-8
図13-8 2014年夏にみられた熱帯の季節内振動(アジアモンスーン域における北進)
東経65度~85度(左図)と東経120度~140度(右図)で平均した5日移動平均OLRの平年偏差の同期間の経過を表す。 この期間は、大規模な対流活動活発域と不活発域が交互に北進し、 8月には、インドの北緯20度付近からフィリピン付近にかけて対流活動不活発な領域となっていることがわかる。
※異常気象分析検討会(臨時会)2014年9月3日報道発表資料より抜粋

 こうして、南シナ海からフィリピン東海上にかけて対流活動不活発となったため、地上付近は高気圧性偏差となり、時計回りの循環が発生しました。 そのため、平年では南シナ海からフィリピン東海上へ吹く地上付近の西風(モンスーン西風)が、東シナ海に向かう風(南西風)となり、湿った空気が西日本に流れ込みやすくなりました。 一方で、太平洋高気圧の日本付近への張り出しは弱く、高気圧の縁辺をまわる南からの湿った空気も日本付近に入りやすくなりました。 図13-9に、その様子がよくみられた8月11~15日を平均した状況を示しています。


図13-9
図13-9 湿った空気の日本付近への流入がよくみられた2014年8月11~15日の状況
(左図)対流圏下層(925hPa)における、色は比湿偏差(kg/kg;寒色域が湿っていることを示す)、 矢印は水蒸気フラックス(kg/kg×m/s)を表す。
右図)等値線は海面気圧の同期間の平均値(hPa)、色は平年偏差を表す(暖色域が高気圧偏差)。

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