春の特徴

長野県の春

春は冬から夏への季節の変わり目に当たり、激しい気象の現象の起きる季節です。「花に嵐」というように、時には発達した低気圧が通過して、強い風を吹かせ、満開の桜を散らせることもあります。また、4月は季節の進みぐあいが一番早い月です。例えば、長野の日平均気温は、4月初めは7.1℃ですが月末には13.9℃にもなり月初めから月末にかけて約7℃も上昇します。

なぜ春は空気が乾燥し、強い風が吹きやすいのか

春になると、移動性高気圧や低気圧が交互に日本付近を通過しはじめます。移動性高気圧に覆われると晴れる日が続き、盆地では気温が上がります。盆地での地面の温度が上がると地面付近の空気も暖められるため、膨らんで(膨張)軽くなりそこの空気は上昇します。それを補うように周りからは空気が吹き込んで来ますし、強い風で上空の空気がかき混ぜられて地上に降りて来ます。午後に風の強くなる地域があるのはこのためです。

また、移動性高気圧が日本の東海上に進んだ後に、日本海を低気圧が発達しながら進むと、この低気圧に吹き込む南よりの湿った強い風は、高い山を越える時に風上側で雲ができて水蒸気を吐き出し、暖かく乾いた空気として盆地や日本海側に吹き下りる「フェ-ン現象」が発生しやすくなります。

乾燥した状態は益々進み、湿度が10%を割ることもあります。

このように春は乾燥し、強風も吹きやすくなります(図1)。

このため、長野県のような内陸部や日本海側では、この時期に林野火災が最も多く発生します。また、風速(10分間の平均した風の速さ)が10m/s を超すと、火が煽られて大火になります。春に火災が多いのは、強風と乾燥に加えて、枯れ葉・枯れ枝などが乾燥して燃えやすくなっていること、仕事や行楽で人々が野山に出かける機会が多くなることなどが理由と考えられます。

図1 松本の旬別相対湿度と平均風速の平年値(統計期間:1991~2020年)

雪崩(なだれ)

雪崩とは

雪崩は、山の斜面に積もった雪が、急速に崩れ落ちる現象をいいます。3月は天気の変化が大きく、気温も短い周期で変動する月です。このため、長野県の積雪のある山沿いでは、真冬と同様に春にかけても雪崩が発生しやすくなります。

山腹に積もった雪には、斜面方向にすべり出そうとする力(重力)が常に働いています。この力は斜面の傾き(傾斜)がきついほど、また積雪が多いほど大きくなります。積雪が斜面に留まっていられるのは、凹凸のある地面との間に働く摩擦の力や、雪の重みで沈み込む(沈降)圧力などで力の釣り合いが保たれているからです。しかし、何らかの原因で、雪を支える力の限界を越えると、雪崩が発生します。

表層雪崩

雪が降り止んでから、積雪の表面は日射、風、気温の影響で変化し、次の雪の時にはその面は弱い層となります。

そして、抵抗力が弱くすべり落ちやすくなったその弱い層の上の積雪が、一気に崩れ落ちるのが「表層雪崩」です。

全層雪崩

地面の上に積もった積雪全層が落下する現象で、春先に多く発生します。

図2 表層雪崩(左図)と全層雪崩(右図)の模式図

着氷(ちゃくひょう)

着氷とは

着氷とは、空気中の過冷却した小さな水滴が、木や架線、電線、地上の物体に衝突し凍結してできる氷のことです。着氷には、その時の気象条件によって、霧氷(むひょう)と 雨氷(うひょう)に分けられます。

4月の中頃までは、本州の南を低気圧が通過する時に、長野県では標高1,000m前後の地域を中心に着氷により、被害の発生する場合があります。

過冷却とは

霧や雲の粒は直径が約0.01~0.03mmと非常に小さな水滴です。この水滴は、-10~-20℃以下になっても凍るきっかけとなる核(凍結核)がないと、水滴のままでいることができます。このような状態を「過冷却」といいます。

過冷却した水滴が、0℃以下に冷えた木や物体にぶつかると、凍るきっかけができるので、瞬間的に凍ります。

雨氷(うひょう)現象について

着氷の中で「雨氷」は架線、電線、樹木に付着し、電車の運休、倒木、路面を凍結させるなど私たちの生活に障害をもたらします。

雨氷が発生する条件は、南からの暖かい空気が上層に入って、0℃以上の逆転した層(普通、上層に行くにつれて気温は低くなりますが、そうではない場合があります。このような状態を逆転した層といいます)ができることです。

そして、これより上の層から降る雪が、この層で溶けて水滴となり、下層の0℃以下の冷たい層の中を過冷却のまま通過して、0℃以下に冷えた地上の物に当たって凍結する現象です(図3)。

図3 雨氷発生時の模式図

長野でのさくら(そめいよしの)の平年の開花日は4月11日、満開日は4月16日です。さくらの開花日とは、標本木で5~6輪以上の花が咲いた状態となった最初の日を言います。満開日とは、標本木で約80%以上のつぼみが開いた状態となった最初の日を言います。

遅霜(おそじも)

霜の発生

春や秋は、移動性高気圧と低気圧が交互に日本付近を通過し、天気が数日の周期で変わります。移動性高気圧は乾いた空気と晴天をもたらしますが、夜間には気温が下がり、春や晩秋には霜が降りるようになります。春の晩霜や秋の早霜はともに農作物に大きな被害をもたらします。一般に晴れの天気で、風が弱く、気温が3℃近くまで下がるようになると霜が降りやすくなります。特に盆地や谷底などは冷気が貯まりやすく霜が降りやすい場所です。霜は、晴天と弱風をもたらす移動性高気圧に覆われる時に降りやすくなります。このとき「放射冷却現象」が発生していることが多いです。

◎放射冷却とは

物体は、その温度に対応した赤外線を常に放出して温度が下がります。地面や地物は上空に赤外線を放出する一方、雲や空気中の水蒸気などから赤外線を受けて温度の低下が抑えられています。しかし、移動性高気圧に覆われると空気中の水蒸気が少ないため温度が下がりやすく、また高気圧に覆われた夜空には雲が少なく地上から宇宙空間へ逃げる赤外線が多くなり、地上の物体は周囲から受ける赤外線が減り徐々に冷えていきます。併せて風が弱い場合は空気の循環が起こりにくく、冷たくて重い空気が地表付近にたまりやすいため、地表付近はさらに冷えます。地面や地物の表面温度が0℃以下になった時、空気中の水蒸気は直接氷の結晶となって物体表面に付着し霜となります(昇華)。

霜対策と気象情報の利活用

移動性高気圧に覆われたような場合、夜間の地表の温度は気温(地上1.5mで観測)より低いため気温が3℃以下になると霜が降りることが多くなります。霜害の予防には、火を焚いて煙霧をつくり放射冷却現象を弱めたり、防霜ファンで風を起こして冷気が滞留することを防いだり、散水して農作物等の温度が0℃より下がることを防いだりします。気象台では秋の早霜、春の晩霜によって農作物に被害が予想される場合には、前日の昼前や昼過ぎに「霜注意報」を発表していますので事前の対策にご利用ください。


農業分野において、気象情報をさらに効果的に利用していただくため、関東甲信地方版「農業に役立つ気象情報の利用手引き」を作成しました。こちらもご活用ください。