Ⅰ.新潟県の大雨

ここでは、新潟県での気象災害についての解説をしています。

1-1 大雨の時期

 新潟県における大雨災害は6月から7月にかけての梅雨の時期だけでなく、8月にもしばしば発生しています。また、秋には台風による大雨災害も発生しています。
 新潟の5月~10月の旬別降水量をみると、6月下旬~7月中旬(梅雨の時期)、8月下旬~9月中旬(秋雨、台風)に多くなっています。一方、盛夏期の7月下旬から8月中旬にかけては平年値でみると降水量の少ない時期ですが、過去には前線の影響で大雨となったこともしばしばあります。最近では平成10年(1998年)8月4日の新潟市を中心とした大雨や平成23年(2011年)7月の新潟・福島豪雨が、古くは昭和36年(1961年)8月5日の中越地方の大水害、昭和44年(1969年)8月12日の加茂市の水害などがあります。
 表は昭和36年(1961年)以降の新潟県の主な水害を示したものです(台風については「新潟県の台風と災害」を参照。以下の記述を含めて、水害名は通称として用いられている名称で記述しています。)。これをみても、梅雨の時期と同じように盛夏期でも大雨災害が起こりやすいことが分かります。

5月~10月の新潟の旬降水量(平年値)
5月~10月の新潟の旬降水量(平年値)

新潟県の主な大雨災害(昭和36年(1961年)以降)
新潟県の主な大雨災害(昭和36年(1961年)以降)

1-2 大雨の降り方

 大雨は主に積乱雲によりもたらされます。一つの積乱雲による激しい雨は範囲も狭く、継続時間も30分程度と短いです。実際の大雨では次々と積乱雲が通過するため、激しい雨が何回か繰り返されることになります。夏の午後の雷雨の継続時間は通常1~2時間程度で、表の中では昭和59年(1984年)7月16日夕方の新潟市豪雨が該当します。これを基本にその倍の3~4時間、さらにその倍の7~8時間、さらにその倍の十数時間程度といった時間スケールの大雨が現れることになります。
 3~4時間程度の大雨には昭和44年(1969年)8月12日朝の加茂市の水害や昭和48年(1973年)9月23日夕方の糸魚川豪雨などがあります。さらにその倍の7~8時間の大雨として、平成10年(1998年)の8.4水害平成16年7月新潟・福島豪雨平成23年7月新潟・福島豪雨(この豪雨では7~8時間規模が2回あり)などがあります。十数時間程度の大雨として昭和42年(1967年)の8.28羽越水害があります。
 ここでは新潟県の明治以降最大の水害である昭和42年(1967年)の「8.28羽越水害」、平成になってからの平成7年(1995年)の「7.11水害」、平成10年(1998年)の「8.4水害」、「平成16年7月新潟・福島豪雨」及び「平成23年7月新潟・福島豪雨」の5事例について具体的に述べます。

1-3 「8.28羽越水害」

 昭和42年(1967年)8月28日の昼過ぎから下越地方を襲った戦後の県内最大の水害で、荒川や胎内川流域では12時間雨量が400mmにも達する記録的な大雨となりました。このため、各地で河川の決壊・氾濫、土石流などが発生し、県内の死者・行方不明者が100名を超える大きな災害となりました。
 天気図をみると、前線が朝鮮半島から日本海の低気圧を経て新潟県付近を通っています。一方、太平洋高気圧が西日本に張り出しており、このようなときには高気圧の縁を周るようにして暖かく湿った空気が前線付近に流れ込んでいます。
 このため、日本海の低気圧が接近・通過した28日昼過ぎから29日朝にかけて大雨となりました。

昭和42年(1967年)8月28日9時の天気図
昭和42年(1967年)8月28日9時の天気図
8.28羽越水害の降水量分布
8.28羽越水害の降水量分布
8月28日から29日にかけての胎内第一ダムの毎時降水量
8月28日から29日にかけての胎内第一ダムの毎時降水量

1-4 「7.11水害」

 平成7年(1995年)7月11日の昼過ぎから翌12日にかけて、新潟県上越地方から長野県北部(姫川上流域、関川上流域)にかけて大雨となりました。
 天気図をみると、新潟県付近を前線が東西にのび、日本の南海上にある太平洋高気圧の縁を周るように前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、11日夕方を中心に大雨となりました。平岩(糸魚川市)のデータは水害のため欠測ですが、姫川上流域の長野県側にある小谷では11日12時からの12時間で200mmを超え、24時間で300mmを超えています。このため、姫川や関川流域では洪水や土砂崩れなどで大きな被害が発生しました。

平成7年(1995年)7月11日21時の天気図
平成7年(1995年)7月12日9時の天気図
7.11水害の降水量分布
7.11水害の降水量分布
姫川上流の長野県小谷の11日12時~24時の毎時降水量
姫川上流の長野県小谷の11日12時~24時の毎時降水量

1-5 「8.4水害」

 平成10年(1998年)は北陸地方の梅雨明けが特定できない年で、8月になっても前線の影響でしばしば大雨となりました。
 8月4日の天気図をみても、前線が朝鮮半島中部から新潟県付近にのび、太平洋高気圧が西日本に張り出しています。このため、4日の朝、新潟市では1時間に97mm(それまでの記録は約54mm)という猛烈な雨となり、12時までの半日で260mmに達しました。
 雨の降り方を細かくみると、4時頃と7時頃の2つのピークがあり(3~4時間規模の大雨が2回)、1時~8時までの7時間で約230mmとなっています。降水量の多い地域は北西から南東にのびる幅の狭い地域に集中しています。この大雨のため、新潟市では1万棟を超える家屋が浸水するなど大きな被害となりました。

平成10年(1998年)8月4日9時の天気図
平成10年(1998年)8月4日9時の天気図
8.4新潟豪雨の降水量分布
8.4新潟豪雨の降水量分布
新潟の毎時降水量(8月4日0時~12時)
新潟の毎時降水量(8月4日0時~12時)
4時30分頃までの1時間で97mm降っている。
大雨で浸水した新潟市内(平成10年(1998年)8月4日)
大雨で浸水した新潟市内(平成10年(1998年)8月4日)

1-6 「平成16年7月新潟・福島豪雨」

 平成16年7月12日から13日に新潟県及び福島県で発生した豪雨の命名についてpdf

 平成16年(2004年)7月13日の朝から昼過ぎにかけて、下越南部から中越にかけて大雨となり、五十嵐川や刈谷田川が決壊しました。この大雨により県内では死者15名、家屋浸水は1万棟を超える大きな被害となりました。
 天気図をみると、「8.4水害」とよく似ており、大雨の地域が少し南になっているだけです。気象レーダーをみても強い雨雲が東西に長くのびていますが、幅は狭いことが分かります。また、気象衛星からの雲画像では朝鮮半島中部から新潟県にのびる雲域(前線に対応)と朝鮮半島南から山陰沖を経てのびる雲域(高気圧の縁を周る暖かく湿った空気の流入を示す)が能登半島付近で一つになっています。これは大雨の降りやすいことを示す特徴です。
 栃尾では1日で400mmを超えていますが、時系列をみると8.4水害と同様、ピークが9時頃と12時頃の2つあり、7時から14時までの7時間で約300mmと集中しています。

平成16年(2004年)7月13日9時の天気図
平成16年(2004年)7月13日9時の天気図
7.13水害の降水量分布
7.13水害の降水量分布

気象レーダー(7月13日07時)
気象レーダー(7月13日07時)
気象衛星による雲画像(7月13日12時)
気象衛星による雲画像(7月13日12時)
栃尾の毎時降水量(7月13日6時~18時)
栃尾の毎時降水量(7月13日6時~18時)
平成16年(2004年)7.13水害:決壊した五十嵐川(北陸地方整備局提供)
平成16年(2004年)7.13水害:決壊した五十嵐川(北陸地方整備局提供)

1-7 「平成23年7月新潟・福島豪雨」

 平成23年7月27日から30日に新潟県及び福島県で発生した豪雨の命名についてpdf

 前線が朝鮮半島から新潟県付近にのびて停滞し、西日本に張り出した太平洋高気圧の縁を回る湿った空気が前線に向かって流れ込み、新潟県では27日午後から雨となり、30日朝にかけて中越の多いところでは500mmを超える記録的な大雨となりました。この大雨で新潟県内では死者不明5名、家屋の被害は8000棟を超えるなど大きな被害となりました。また、信濃川下流では過去最高の出水となりました。
 1時間雨量は十日町で121mm(新潟県内で初めて1時間に100mmを越える雨量を観測)、加茂市宮寄上で93.5mm、南魚沼市塩沢で89.5mmという猛烈な雨となりました。また、27日から30日にかけての合計雨量は加茂市宮寄上で626.5mm、南魚沼市塩沢で563mm、魚沼市入広瀬で504.5mmとなりました。特に、宮寄上では30日9時までの24時間に469.5mmの雨量を観測しましたが、細かくみると29日9時~16時の7時間に250mm、30日0時~7時の7時間に192mmと7~8時間で200~250mm規模の大雨が2回もありました。

平成23年(2011年)7月29日9時の天気図
平成23年(2011年)7月29日9時の天気図
総降水量分布(7月27日0時~30日24時)
総降水量分布(7月27日0時~30日24時)
気象レーダー(7月29日9時)
気象レーダー(7月29日9時)
冠水した信濃川河川敷の農地
冠水した信濃川河川敷の農地(左)と駐車場(右)