Ⅳ.新潟県の雪災害
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新潟県の気象災害 |
「新潟県の気象特性」の「積雪の分布」で述べたように、 県内の最深積雪は海岸から平野部、そして山沿いと、内陸へ入るほど多くなっています。 しかし常に山沿いで多く降っているわけでもありません。時には海岸部や平野部でも大雪となることがあります。
山雪
この言葉は北陸を中心に使われており、季節風による雪の降り方の違いを表しています。山地に比較的多く降る場合を「山雪」と呼んでいます。山地に加えて平野部でも多く降る場合に「里雪」と呼んでいます。
図1は山雪の概念図で、特徴的なことは、
- 季節風が強く、海岸・平野部では風雪となる。
- 山沿いでは山に沿って風が吹き上がり、地形の影響による上昇気流が発生する。
- 上昇気流の影響を受けて雪雲の内部で雪片が成長し、降雪が強まる。
このようなプロセスを経て、海岸・平野部よりも、山沿いでの降雪量が多くなります。
こうした条件は西高東低の冬型の気圧配置の際に整いやすく、冬季は冬型の気圧配置が頻繁に現れます。
また、発達した低気圧がオホーツク海や千島列島周辺で停滞し、冬型の気圧配置が数日間連続することも珍しくありません。
この場合は上空の寒気を伴った気圧の谷が次々と日本付近を通過し、それに伴って、降雪も強弱を繰り返しながら連続します。
このように冬の間は「里雪」よりも「山雪」の条件が整うことが多く、その結果として、新潟県の山沿いでは、最深積雪が3mをこえる地域が広く分布しています。
里雪
山地に加えて、平野部でも多く降る場合に「里雪」と呼んでいます。「山地では降らない」という意味ではないことにご注意下さい。
図2は里雪の概念図です。これに特徴的なことは、
- 季節風が弱い。
- 上空の寒気の中心が日本海や日本列島の上空にある。
- その寒気の中心付近で雪雲が発達し、降雪が強まる。
これらの条件が整うことにより、海岸部や平野部でも大雪となることがあります。
また、上空の強い寒気に伴い、小さな低気圧が出来ることがあり、海岸部や平野部に短時間の強い雪をもたらします。
そして、上空の寒気が気圧の谷の移動に伴ってしだいに日本の東へ移動し、西高東低の冬型の気圧配置が強まると、北西の季節風も強まり、再び山沿いでの降雪が多くなります。
このように、里雪と山雪は、連続的な遷移をする例がかなり見られます。
雪雲の姿
気象衛星による観測が始まって以来、日本海で発生する雪雲が広範囲に観測できるようになりました。これにより、一口に「雪雲」と言っても、様々なタイプのあることが分かっています。これらの雪雲が発生する仕組みは、上空の寒気の強弱だけでなく、地表付近と上空の風向・風速の違い、空気中に含まれている水蒸気の量などが複雑に絡み合っています。 このような気象条件の違いは降雪量や雪が降る場所に大きく影響するため、現状と翌日の気象条件を詳しく検討して降雪量予想を発表しています。
図3 強い冬型気圧配置の時の雪雲の様子
北西の季節風が大陸から日本列島に向かって吹いています。
①では季節風の風向に沿って、北西から南東方向にスジ状の雪雲が並んでいます。②では、ひときわ発達した雪雲が列をなして並んでいます。これは中国と北朝鮮国境の山岳地帯の影響を受けた風と、朝鮮半島経由で吹いてくる季節風との間で収束(ある場所に周りから空気が集まること)して生じたものです。②の、ひときわ発達した雪雲は「帯状雲」と呼ばれています。
帯状雲の北側(③)では、①の雪雲が延びている方向と直交するように雪雲が並んでいます。③の雪雲は上・中越にかかり、山沿いを中心に強い雪を降らせています。湯沢では13日の日降雪量が93cmに達しました。
新潟県(北陸地方)の大雪災害事例
なだれ
なだれは雪が斜面を滑り落ちる現象です。発生形態や雪の乾き具合によっていくつかに分類されていますが、おおまかに全層なだれと表層なだれについて解説します。
なだれの種類
図4は全層なだれと表層なだれの発生の様子を模式的にあらわしたものです。全層、表層とは、なだれの滑り面の位置による分類で、全層なだれは斜面の地表を滑り面として発生し、文字どおり積雪層全体が滑り落ちるため、なだれの跡には地表が露出します。
一方、表層なだれは、積雪層の内部に弱層というもろく壊れやすい層が出来た場合に、その弱層の上に乗っている積雪層が滑り落ちるなだれです。このため、通常は発生後には地表は露出していませんが、崩れ落ちる雪が途中の雪を巻き込んで大量に崩れる場合には地表が露出することもあります。
全層なだれの特徴と注意点
全層なだれは厳冬期にも発生しますが、多くは春に発生しています。これは春になって気温が高くなると雪解けが進み、融雪水が積雪層を浸透して地面に達し、滑りやすくなるためです。
従って雨が加わると、さらに発生しやすくなります。また、夜間よりも、気温が上昇する日中の方が発生しやすい傾向があります。速度は時速40~80kmと言われています。
全層なだれが発生する際には、雪の表面に、ひび割れやコブ状の盛り上がりが生じます(図5)。これらは全層なだれの前兆現象と言えますので、これらが生じている斜面には近づかないことが大切です。
表層なだれの特徴と注意点
表層なだれの多くは冬季に発生しています。寒気が入って気温が下がり、降雪が強まって数十cm以上のまとまった降雪があった場合などは、表層なだれが発生する危険性が高くなります。
表層なだれは全層なだれと異なって前兆現象が見られません。また、日中・夜間に関係なく発生するため、事前に予測することが非常に困難です。速度は時速100~200kmに達することもあり、破壊力が大きいことが特徴です。
なだれが発生しやすい場所
なだれはスピードが速く、発生に気づいても逃げることは不可能です。そのため雪が積もっていないうちから、なだれが起きやすい場所を知っておくことが大切です。
- 急な斜面に注意
一般的に傾斜が30度以上になるとなだれが発生しやすくなり、傾斜が35度から45度が最も危険と言われています。これらの急斜面に注意しましょう。 - 木が生えていない斜面に注意
樹木が生えていなかったり、生えていても背の低い樹木だけの斜面や、笹や草しか生えていない斜面などは、なだれが発生しやすいため注意しましょう。 - スキー場の立ち入り禁止区域など
近年は自然の野山でスキーやハイキングを楽しむ「バックカントリー」が盛んになりましたが、それに伴って人為的になだれを発生させ、巻き込まれる例が増加しています。誰も滑っていない斜面を滑降するのは爽快なものですが、 スキー場の立ち入り禁止区域などは指定コースと違って安全が保証されない自然の斜面であり、立ち入ることは大変危険です。
新潟県の主ななだれ災害
大雪の年には大きななだれ災害が発生しています。約90年前の1918年(大正7年)1月9日、三俣村(現湯沢町)で158名が亡くなるという日本最大のなだれ災害が発生しています。 また、1927年(昭和2年)の2月前半には死者5名以上のなだれ災害が6件も相次ぎました。この30年くらいをみても昭和56年豪雪では1月7日に守門村大倉(現魚沼市)で8名が、1月18日には湯之谷村(現魚沼市)で6名が、昭和59年豪雪では2月9日に中里村(現十日町市)で5名が、昭和61年豪雪では1月26日に能生町(現糸魚川市)で13名がなだれにより亡くなっています。気象状況をみると、三俣のなだれや1927年のなだれを含めて、 いずれも気温の低い厳冬期で、数日に及ぶ大雪の最中であったり、大雪が小康状態となった直後に発生しています。
融雪による災害
新潟県は最深積雪が3mを超える地域がある豪雪地です。大量の積雪は、液体の水に換算しても、かなりの量になります。森林総合研究所十日町試験地の観測によると、雪を水に換算した量は、1981年から2010年までの年最大値の平均で720mmでした。これは十日町地域気象観測所(アメダス)における、梅雨期間を含む6、7月の平年降水量351.1mmの約2倍となります。
このような大量の水が雪として蓄えられており、融雪期には毎日数十mmの雨量に相当する雪解け水が地面に流れ出しています。融雪の最盛期には日雨量50mmに相当することも珍しくありません。これは、晴れていても、毎日雨が降り続いているのと同じ事になります。
これに低気圧の通過による降雨が加わると、さらに多くの水が地面に流出します。新潟県では地すべり発生件数の半数近くが3月から5月の融雪期に集中しており、雪解け水が大きく影響しています。
融雪期の災害事例
融雪期の地すべり災害として、1969年(昭和44年)4月26日の広神村(現魚沼市)、1984年(昭和59年)5月17日の長岡市蓬平、2001年(平成13年)4月28日の松之山町(現十日町市)の例などがあります。
なお、初冬でも大雪が降ると1980年(昭和55年)12月30日の長岡市濁沢(家屋倒壊12)の事例のように地すべりが発生することがあります。
広神村(現魚沼市)水沢新田の地すべり
1969年4月26日 死者・不明8名、家屋埋没10戸
長岡市蓬平の地すべり
1984年5月17日 家屋(住宅)倒壊6戸
松之山町(現十日町市)東川地すべり
2001年4月28日 ライフライン切断、工場被災
日々の降雪量予想
新潟地方気象台では12月1日から翌年3月31日までの間、県内を13の区域に分け、06時と16時の一日2回、降雪量予想を発表しています(図6)。前記の期間以外でも、13区域のうちどこか1区域で5cm以上の降雪が予想される場合には臨時に発表します。
日々の除雪や屋根雪処理作業、通勤・通学などにご利用いただけます。
この降雪量予想はテレビ・ラジオをはじめ、新潟地方気象台のホームページでご覧いただけます。
図6 新潟県降雪量予想の例