気象、地震、火山、海洋の知識

天気のはなし

0. はじめに

 このページでは、身近な気象の話題を取り上げ、具体例を使ってわかりやすく解説したいと思います。この解説を通じて、大気の様々な現象、気象の様々な資料、気象台が発表する情報や気象台の仕事などへの興味と関心を少しでも深めて頂ければ幸いです。

1. 福岡(九州北部)の天気の季節変化の特徴

 九州山地の北側に位置する九州北部は、日本海側の気候帯に属すると思っている人が少なくないようです。実際、冬型の気圧配置になると曇天になることが多く、雪が降ることもあります。そこで、福岡市の天気の季節変化の特徴を、雲量の平年値の季節変化で見てみましょう(図1)。すると、梅雨の時期と秋雨(台風)の時期の2つのピークの他に、1月~2月を中心としてもう一つ台地状の山があり、1年のうちで3つの時期に曇天になりやすいことが確かめられます。いっしょに示した、典型的な太平洋側の気候を示す宮崎市と日本海側の気候を示す金沢市と比べると、どちらかと言えば、3つの山が見られる日本海側の金沢市の方と似ています。

図1 旬平均雲量の平年値(福岡、宮崎、金沢)

 では、降水量の季節変化はどうなっているでしょうか。同じように、福岡市の降水量の平年値の季節変化で見てみましょう(図2)。すると、こんどは、大きな山は真夏の前と後の、梅雨と秋雨(台風)の時期の2つだけで、真冬は一年で最も少ない谷に当たっています。このような降水量の季節変化の形は、雲量の変化とよく対応する3つのはっきりとした山が見られる日本海側の金沢市よりは、一年中で冬に最も少なくなる太平洋側の宮崎市とよく似ています。

図2 旬平均降水量の平年値(福岡、宮崎、金沢)

 以上のことから、福岡市では、雲量の季節変化は夏と冬に多くなる「日本海側の気候」に近いのに、降水量の季節変化は夏に多く冬に少ない「太平洋側の気候」の方に近くて、「雲量は日本海側型、降水量は太平洋側型」というユニークな特徴があることがわかります。

 では、どうして福岡(九州北部)では、雲量と降水量の季節変化がこのようにユニークな「ねじれ」の状態になるのでしょうか。これには、冬の典型的な雲と降水のでき方が関係しています。冬になると、「西高東低」としてテレビの天気予報番組の解説でおなじみの、冬型の気圧配置が現れることが多く、この時、日本付近に寒気が流れ込んできます。すると、大気の温度が非常に低いために、それに比べて暖かい日本海や黄海や東シナ海の海面から盛んに熱と水蒸気が立ち昇って寒気の底の部分を暖めると同時に湿らせます。この状態は、お風呂や「やかん」の水を下から沸かすのと同じで、暖められた部分が軽くなって上昇し、代わりに、冷たい部分が下降して激しく入り乱れる「対流」という現象が起こります。大気の場合は、暖められて上昇流になったところでは空気が気圧の低い上空に行って膨張して(周りと熱のやり取りをしなくても)冷えるため水蒸気が凝結し、雲ができます。雲の背の高さがある程度高くなると、雲の中の水や氷の小さな粒が雪や「あられ」などの降水粒子にまで成長し、降ってきます。落下の途中で気温が高くなっていると融けて、地上では雨になります。このことから、「九州北部で、冬に、雲量が多いのに降水量は少ない」というのは、この地域では雲はできるけれども雪や「あられ」などの降水粒子が成長するほど雲が高く成長しない、ということを意味しています。

 では、どうして九州北部では季節風が吹いているときに雲が高く成長しないのでしょうか。それには海と陸の分布が関わっています。ここで冬型の気圧配置の時の静止衛星による雲の画像と合わせて東アジアの地図を見て下さい(図3)。西高東低の気圧配置の時には、大気の下層で北西から南東に(図では左上から右下に)向かって季節風が吹き、これに乗って寒気が大陸から日本列島へやってきます。この寒気が暖かい海面に触れることが、雲の発生・発達にとってはとても大事です。シベリアやモンゴル、中国北部などから、この北西の季節風に乗って南東に向かうルートをいくつか考えてみましょう。どのルートを通るかによって、日本列島に着くまでに暖かい海面に触れる距離が大きく異なることに気がつくでしょう。

図3 静止衛星赤外画像で見た冬型気圧配置の時の雲の分布(2004年1月24日21時)

 例えば、朝鮮半島の付け根に当たる日本海北西部のロシアの沿岸から日本の北陸地方に向かうルートを取ると、海の上を吹き渡る距離が 800 km に達して、他のルートよりも長いことがわかります。これに対して、九州北部に北西風に乗ってやってくるルートの風上を見ると、朝鮮半島が横たわっていて、海は朝鮮海峡と対馬海峡の部分だけです。幅が合わせて 200km 程度しかありません。ご存知の通り、この海峡には対馬海流という暖流が日本海の南部に向かって流れていて、日本海の真ん中に比べると水温はやや高いのですが、それでも4倍も違う「海の上を吹き渡る距離」の効果をこれだけで埋めることはできません。

 こうして、九州北部にやってくる寒気は、暖かい海面に触れる距離が短いために十分な熱や水蒸気をもらうことができず、このためその中で雲があまり高く発達しないことになります。雲にはおおわれるけれども、降水量は少ないわけです。これが福岡(九州北部)で冬に雲量は多いのに降水量が少ないことの簡単な説明です。

従って、もし仮に朝鮮半島がなくて、その部分に広く暖かい海が広がっていたとしたら、北西季節風に乗ってやってくる寒気はたっぷりと熱と水蒸気を与えられ、福岡(九州北部)の冬は、雨や雪が今よりずっと多く降る、大変「うっとうしい」天気になるはずです。この地域の「雲量は日本海側型、降水量は太平洋側型」というユニークな天候の特徴は、海陸分布、もっと具体的には、朝鮮半島の効果によるもの、と言えるでしょう。

 なお、寒気の中の雲がどの程度の高さまで発達するのかについて、もっと詳細に議論するためには、温度が鉛直方向にどのように変化しているか、その変化の様子が場所によってどう違うかということなども考慮する必要があります。しかし、大局的には、ここで述べたような「海面を寒気が吹き渡る距離の違い」の影響は非常に大きいと考えてよいでしょう。

 では、暖かい季節(4月~10月)の雲量や降水量の変化はどうなっているでしょうか。雲量(図1)は3つの地点の変化がほとんど重なり合うほどよく似ています。また、降水量(図2)も、細かく見ると微妙に違いがありますが、梅雨と秋雨(台風)の頃に多いという特徴は共通です。このように、暖かい季節の雲量や降水量の変化の様子が各地点の間で似ていることは、冬とは違って、狭い範囲の海と陸の分布が雲のでき方にあまり影響していないことを意味しています。つまり、暖かい季節の雲のでき方は冬の季節風の場合の雲のでき方とはかなり違うということになります。

2. 低気圧と天気の分布

 春になると、冬に比べて、九州付近を低気圧や移動性の高気圧が通過する回数が増えてきます。低気圧は、人が「不機嫌であること」の代名詞として使われるように、曇雨天や強風など、多くの人にとって悪天と感じる天候をもたらすものと受け止められています。大まかに見ればその通りかもしれませんが、実際の例をもう少し詳細に見てみると、「高気圧は晴れ、低気圧は雨」というように単純ではありません。どちらかと言えば、「高気圧が近づいてくる所では晴れ、低気圧が近づいてくる所では曇りや雨で天気が悪い」という方が、実際の天気分布をより良く説明することが多いでしょう。つまり、晴天は高気圧の西側よりも東側に、曇雨天も低気圧の西側よりも東側にそれぞれ大きく広がっていることが多く、天気は、高気圧や低気圧の前後で対称には分布していないということです。今後はこのことを頭の隅に置いて、テレビや新聞の天気予報をご覧になって下さい。これまでよりも、天気図に表された気圧配置と天気との関係をより興味深く見ていただけると思います。
ここで述べたことは、単なる経験則ではなく、上空を偏西風が吹いている中緯度帯を移動する、比較的スケールの大きな(だいたい1000kmよりも大きな)高気圧・低気圧について、気象の力学によって説明がつくことです。ただし、その説明は、気象学をある程度深く学ばないと理解することができないので、ここでは割愛させていただきます。

 もう一つ、高気圧・低気圧と並んで天気の変化と関連づけて説明される大気の構造でなじみ深いものとして、前線があります。中学校の理科の時間に習う(教科書に図解されている)低気圧に伴う前線では、冷たい空気の上に暖かい空気がはい上がり、あるいは、冷たい空気が暖かい空気を強制的に持ち上げるようにして進むことにより、雲は主に前線の寒気側(北側)にできて、降水もその下で起こると説明されています。このため、図解では、2種類の前線に挟まれた「暖域」と呼ばれるところには雲や降水はほとんど描かれていません。

図4 速報天気図(2004年4月19日09時)

図5 静止衛星赤外画像で見た雲の分布(2004年4月19日09時)

図6 レーダーで見た降水の分布(2004年4月19日09時)

 実際はどうでしょうか。図4に地上天気図を示した今年の 4月19日09時(日本時間)の例で見てみましょう。低気圧が日本海の西部にあって東北東へ進んでいます。この低気圧に伴う温暖前線が北陸地方へ、寒冷前線は九州の北西部をかすめて南西諸島の北に伸びています。この時の雲の様子を見ると(図5)、静止衛星による赤外画像で白く見える高い雲は、主に、低気圧の「暖域」から温暖前線の北側にかけて広く分布しており、一方、低気圧の西側や寒冷前線の寒気側(西側)には少なくなっています。また、これらの雲の下の降水の様子をレーダーで見ても(図6)、寒冷前線の進行方向前方に当たる東側の「暖域」内にたくさんの降水が見られ、前線の後方に当たる西側には少なくなっています。この例のように、前線の寒気側よりも暖気側に雲や降水がたくさん分布している低気圧は日本付近では頻繁に見られ、珍しくありません。
実際の天気の分布は、地上だけではなく、上空を含めて、いろいろなスケールの大気の流れや温度・水蒸気の分布などが影響し合って総合的に決まっており、中学校の理科で学ぶような、暖気が寒気の上をはい上がる運動をしながら移動する地上の前線の影響だけで決まるわけではないためです。気象台の予報官や民間気象会社で働く気象予報士など気象の実務担当者は、このため、地上の天気図だけではなく、上空の「天気図」や、温度や湿度の鉛直方向の変化の様子なども同時に調べて、天気を診断したり予測したりしています。